モルの手記⑫ 月野莉音 (※執筆中) version 3
モルの手記⑫ 月野莉音
可愛くない。
私のこの感情だって、誰かの理想や誰かの正しさに塗りつぶされて、見えなくされてしまうんだ。無かったことにされるんだ。
可愛くないから死にたい。
でも私が死んだら悲しむ人がいるんだよな。
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貧乏ながらも愛情のある家庭に生まれた。両親が共働きで、私は0歳のうちに保育園に預けられた。親はいつも忙しそうにしていた。特に父親はトラックドライバーで、週に1度家に帰ってこれるかどうかという忙しさだったけれど、帰ってきたら必ず一緒に遊んでくれた。私を第一に考えてくれる優しい両親だと実感していた。
——————————————————————————————
「男のくせにピンクが好きなんてだせー」
「莉音くんは男の子でしょー?あっち行ってよ」
男の子なのに可愛いものが好きな私は、周囲から奇異の目で見られた。物心ついた時には既に自分が嫌いだった。可愛くなかった。変な人だった。おかしい人だった。除け者だった。邪魔者だった。
男の子なのに可愛いものが好きな私は、周囲から奇異の目で見られた。物心ついた時には既に自分が嫌いだった。可愛くなかった。変な人だった。おかしい人だった。
保育園で私は誰とも仲良くできず、独りぼっちだった。
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「ねえ、どうして僕は男の子なの?」
「ねえ、どうしてぼくは男の子なの?」
「どうしてって…。莉音くんは生まれた時から男の子よ。」
「…女の子に生まれたかった。」
「そうなの…。女の子に生んであげられなくてごめんね。」
その頃から私は、言語化が得意ではなかった。そんな質問がしたかったわけじゃない。みんなから嫌われることに納得できなかっただけ。もし女の子に生まれていたら、仲間はずれにされなかったかも知れないと思っただけ。でも親の哀しそうな目を見て、もうこの話はしちゃいけないんだと悟った。
その頃から私は、言語化が得意ではなかった。そんな質問がしたかったわけじゃない。謝って欲しかったわけじゃない。みんなから嫌われることに納得できなかっただけ。もし女の子に生まれていたら、仲間はずれにされなかったかも知れないと思っただけ。でも親の哀しそうな目を見て、もうこの話はしちゃいけないんだと悟った。
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「誕生日、何が欲しい?」
「プリンセスのドレス!」
おもちゃ屋にあった、とあるプリンセスのなりきり衣装。
「莉音くん、あのね…それは女の子が着るものなの…」
親はまたあの時のように哀しい目を見せた。親にそんな顔をさせてしまう自分を酷く嫌った。私はおかしい子だ。親を傷つける不孝者だ。もう自分の思いを口にはしないと、この時誓った。
親はまたあの時のように哀しい目を見せた。親にそんな顔をさせてしまう自分を酷く嫌った。私はおかしい子だ。親を傷つける不孝者だ。
どうして、私が何かを好きになることで、ほかの誰かが哀しんだり、誰かに嫌われなければならないんだろう。
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私は心を閉ざすのが早かった。小さい頃から絵本やお絵描き、ピアノに夢中になり、ひとりの世界にのめり込んだ。私は心を閉ざすのが早かった。小さい頃から絵本やお絵描き、ピアノに夢中になり、ひとりの世界にのめり込んだ。
ひとりの世界にいる間は、嫌いな自分のことを忘れられた。小さな国のお姫様になってハンサムな王子様と恋をした。
頭のなかで完結する世界では、自分の好きに正直になれた。
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「なあ見ろよ!これ莉音のお絵かき帳だぜ」
「うわ、女ばっかり描いてる〜。気持ち悪ぃ」
「髭生やしておっさんにしてやろうぜ!」
「あははははっ!それ最高だなっ」
小学校に進学した最初の年の、ある日のことだった。教室に戻ると、クラスの男子たちが私の自由帳を勝手に開き、落書きをしていた。
私はこの状況にわけがわからず、頭が真っ白になった。
「やめて!返して!」
「いーじゃん別にっ」
私の唯一の心の拠り所に土足で入り込んで荒らされる。大切な私だけの世界を蔑ろにされ、心が引き裂かれるように痛む。
「ねえ返してよ!」
ノートの取り合いが長引き、気付いたら涙が溢れていた。悔しくて、止まらなかった。すぐに先生が駆けつけて仲裁に入ってくれたけど、大切なノートは落書きで穢されただけでなく、しわだらけでぐちゃぐちゃになっていた。私が変な人なのは知ってる。気持ち悪い人なのも知ってる。でもそれが、私のひとりの世界をめちゃくちゃにされる理由になるなんて到底、受け入れられなかった。
「みんな、ここで何があったのか教えてくれる?」
先生がクラスの生徒たちに訊く。
「」
男の子。私が大嫌いな言葉。この言葉のせいで、私は可愛くない方に生まれ、可愛くない生き方を強制される。
この体の持ち主である私は、この身体の事が大嫌いであるにも関わらず、なぜ両親はここまで私を大切にするのかわからなかった。
私のこの感情だって、誰かの理想や誰かの正しさに塗りつぶされて、見えなくされてしまうんだ。無かったことにされるんだ。
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貧乏ながらも愛情のある家庭に生まれた。両親が共働きで、私は0歳のうちに保育園に預けられた。親はいつも忙しそうにしていた。特に父親はトラックドライバーで、週に1度家に帰ってこれるかどうかという忙しさだったけれど、帰ってきたら必ず一緒に遊んでくれた。私を第一に考えてくれる優しい両親だと実感していた。
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「男のくせにピンクが好きなんてだせー」
「莉音くんは男の子でしょー?あっち行ってよ」
男の子なのに可愛いものが好きな私は、周囲から奇異の目で見られた。物心ついた時には既に自分が嫌いだった。可愛くなかった。変な人だった。おかしい人だった。
保育園で私は誰とも仲良くできず、独りぼっちだった。
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「ねえ、どうしてぼくは男の子なの?」
「どうしてって…。莉音くんは生まれた時から男の子よ。」
「…女の子に生まれたかった。」
「そうなの…。女の子に生んであげられなくてごめんね。」
その頃から私は、言語化が得意ではなかった。そんな質問がしたかったわけじゃない。謝って欲しかったわけじゃない。みんなから嫌われることに納得できなかっただけ。もし女の子に生まれていたら、仲間はずれにされなかったかも知れないと思っただけ。でも親の哀しそうな目を見て、もうこの話はしちゃいけないんだと悟った。
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「誕生日、何が欲しい?」
「プリンセスのドレス!」
おもちゃ屋にあった、とあるプリンセスのなりきり衣装。
「莉音くん、あのね…それは女の子が着るものなの…」
親はまたあの時のように哀しい目を見せた。親にそんな顔をさせてしまう自分を酷く嫌った。私はおかしい子だ。親を傷つける不孝者だ。
どうして、私が何かを好きになることで、ほかの誰かが哀しんだり、誰かに嫌われなければならないんだろう。
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私は心を閉ざすのが早かった。小さい頃から絵本やお絵描き、ピアノに夢中になり、ひとりの世界にのめり込んだ。
ひとりの世界にいる間は、嫌いな自分のことを忘れられた。小さな国のお姫様になってハンサムな王子様と恋をした。
頭のなかで完結する世界では、自分の好きに正直になれた。
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「なあ見ろよ!これ莉音のお絵かき帳だぜ」
「うわ、女ばっかり描いてる〜。気持ち悪ぃ」
「髭生やしておっさんにしてやろうぜ!」
「あははははっ!それ最高だなっ」
小学校に進学した最初の年の、ある日のことだった。教室に戻ると、クラスの男子たちが私の自由帳を勝手に開き、落書きをしていた。
私はこの状況にわけがわからず、頭が真っ白になった。
「やめて!返して!」
「いーじゃん別にっ」
私の唯一の心の拠り所に土足で入り込んで荒らされる。大切な私だけの世界を蔑ろにされ、心が引き裂かれるように痛む。
「ねえ返してよ!」
ノートの取り合いが長引き、気付いたら涙が溢れていた。悔しくて、止まらなかった。すぐに先生が駆けつけて仲裁に入ってくれたけど、大切なノートは落書きで穢されただけでなく、しわだらけでぐちゃぐちゃになっていた。私が変な人なのは知ってる。気持ち悪い人なのも知ってる。でもそれが、私のひとりの世界をめちゃくちゃにされる理由になるなんて到底、受け入れられなかった。
「みんな、ここで何があったのか教えてくれる?」
先生がクラスの生徒たちに訊く。
「」
男の子。私が大嫌いな言葉。この言葉のせいで、私は可愛くない方に生まれ、可愛くない生き方を強制される。
この体の持ち主である私は、この身体の事が大嫌いであるにも関わらず、なぜ両親はここまで私を大切にするのかわからなかった。