No.3 1/4 version 2

2021/10/26 16:37 by someone
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白紙のページNo.3 1/4
 4月21日、火曜日の午後2時———花森健人は溜め息をつきながら、今一度英道大学の校門を通った。芝生の植えられた校庭を横切り、そのまま東棟二階の隅に位置する小教室に向かう。昨日の事件を受けて、横尾和明との再度待ち合わせる場所はそこに変更となったためだ。
 昨夜———蜘蛛の怪人が闇色の霞と消えた際にえづきこそしたものの、健人は可能な限りすぐ、応の事態の収拾として警察と救急に匿名の通報を入れた。また和明や西棟一階付近に倒れていた男子学生の安全を再度確保する。そうしてパトカーのサイレンを確認してその場を後にした。その後、この事は報道されたかもしれないが、そうしたニュースを見る気にもなれず、自宅アパートで呆然と過ごしていた。その心身に安らぎはなく、そうしていないと朝が迎えられなかったためだ。殆ど一睡もできないままであり、流石に睡魔が襲ってきていた正午。スマートフォンの着信音に弾かれたように起きると、健人はその画面を見る。そこには登録こそしていなかったものの、和明の電話番号が表示されていた。

「もしもし…花森、昨日はすまなかっ…」
「どういうつもりだったんだ?」
電話に出るや否や強い言葉をぶつけてしまう。強いストレスに曝され続けた自我が、その捌け口を求める故か。
「それは…」
「二人とも死んでたかもしれない」
謝罪する相手の言葉さえ聞き入れず、責め立ててしまう行為に自己嫌悪さえ感じつつも止めることができない。だがそこにいた連れ合いが、その危険性を理解しながらそれを回避しないという異常行動に出た時、どうすれば良かったというのか…自己嫌悪にあっても口から出てくるのはそんな𠮟責だった。
「あの時俺はどうすればよかったんだ!?”逃げよう”って言っても、あんな憑りつかれた様になってた横尾を、置いていけば良かったのか!?」
「…すまなかった…でも、あの後何があったんだ?」
そこで何も言えなくなった。この横尾和明という男の、ある種動じない姿勢を心底呪ってしまう。
「…なんかよく分からない奴が出てきて、戦り合って消えてったよ。ふざけた話だ」
嘘だ———和明はそう直感していた。何があったのか不可解なのは本心だ。昏倒していた意識が回復したときには、駆け付けた警察に保護されていた。怪事件に関する全ての状況に明るくない以上、彼らにこちらの事情全てを話すべきか…そんな思いから蜘蛛の怪物のことは当初は伏せつつ、探り気味に話を進めていた。そんな時、担当者からある言葉を投げかけられた。
「———君は”何か”を見ているはずだ。身体の正面の傷、それは何処で付いたものだね?」
そうだよな…そう来るよな…この時、やむを得ず”昨夜については”見たことを全て開示する。ある一点だけを除いて———。それは自身の記憶を想起しながら話しているときだった。”花森は何処に行った?”自分が保護された時には周囲に彼の姿は無かった。

      

4月21日、火曜日の午後2時———花森健人は溜め息をつきながら、今一度英道大学の校門を通った。芝生の植えられた校庭を横切り、そのまま東棟二階の隅に位置する小教室に向かう。昨日の事件を受けて、横尾和明との再度待ち合わせる場所はそこに変更となったためだ。
 昨夜———蜘蛛の怪人が闇色の霞と消えた際にえづきこそしたものの、健人は可能な限りすぐ、応の事態の収拾として警察と救急に匿名の通報を入れた。また和明や西棟一階付近に倒れていた男子学生の安全を再度確保する。そうしてパトカーのサイレンを確認してその場を後にした。その後、この事は報道されたかもしれないが、そうしたニュースを見る気にもなれず、自宅アパートで呆然と過ごしていた。その心身に安らぎはなく、そうしていないと朝が迎えられなかったためだ。殆ど一睡もできないままであり、流石に睡魔が襲ってきていた正午。スマートフォンの着信音に弾かれたように起きると、健人はその画面を見る。そこには登録こそしていなかったものの、和明の電話番号が表示されていた。

「もしもし…花森、昨日はすまなかっ…」
「どういうつもりだったんだ?」
電話に出るや否や強い言葉をぶつけてしまう。強いストレスに曝され続けた自我が、その捌け口を求める故か。
「それは…」
「二人とも死んでたかもしれない」
謝罪する相手の言葉さえ聞き入れず、責め立ててしまう行為に自己嫌悪さえ感じつつも止めることができない。だがそこにいた連れ合いが、その危険性を理解しながらそれを回避しないという異常行動に出た時、どうすれば良かったというのか…自己嫌悪にあっても口から出てくるのはそんな𠮟責だった。
「あの時俺はどうすればよかったんだ!?”逃げよう”って言っても、あんな憑りつかれた様になってた横尾を、置いていけば良かったのか!?」
「…すまなかった…でも、あの後何があったんだ?」
そこで何も言えなくなった。この横尾和明という男の、ある種動じない姿勢を心底呪ってしまう。
「…なんかよく分からない奴が出てきて、戦り合って消えてったよ。ふざけた話だ」
嘘だ———和明はそう直感していた。何があったのか不可解なのは本心だ。昏倒していた意識が回復したときには、駆け付けた警察に保護されていた。怪事件に関する全ての状況に明るくない以上、彼らにこちらの事情全てを話すべきか…そんな思いから蜘蛛の怪物のことは当初は伏せつつ、探り気味に話を進めていた。そんな時、担当者からある言葉を投げかけられた。
「———君は”何か”を見ているはずだ。身体の正面の傷、それは何処で付いたものだね?」
そうだよな…そう来るよな…この時、やむを得ず”昨夜については”見たことを全て開示する。ある一点だけを除いて———。それは自身の記憶を想起しながら話しているときだった。”花森は何処に行った?”自分が保護された時には周囲に彼の姿は無かった。