6.お礼と名前 version 3

2023/04/20 13:15 by someone
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6.お礼と名前
羽衣の装飾から打ち出された光線が悪魔に迫る。しかし悪魔は難なくこれを往なし、また躱した。そこに跳躍しながら繰り出された骸骨天狗の剣閃が衝撃波となって飛んで来る。悪魔が槍を大きく薙いでそれを弾くと、直後に骸骨天狗がそのまま再度鍔迫り合いに持ち込まんと飛び掛かった。しかし悪魔はそれに応じはしない。
宙を舞う羽衣の装飾から打ち出された光線が悪魔に迫る。しかし悪魔は難なくこれを往なし、また躱した。そこに跳躍しながら繰り出された骸骨天狗の剣閃が衝撃波となって飛んで来る。悪魔が槍を大きく薙いでそれを弾くと、直後に骸骨天狗がそのまま再度鍔迫り合いに持ち込まんと飛び掛かった。しかし悪魔はそれに応じはしない。
「浅はかな真似を!」
その猛りと共に、槍の柄で骸骨天狗を殴り付け、そのまま体躯の捻りを加えた一撃をカウンターと打ち込む。しかしその一撃が骸骨天狗の身を打つことはなかった。そこにあったのは堅牢な甲殻を携え、異形となった彼の右腕。それが悪魔の渾身の一撃を防いでいた。そのまま骸骨天狗は甲殻の右腕に備わる鉾で、悪魔を貫き、更にそこから強大な光線を撃った。
直後に響くは悪魔の叫び。光線はそのまま闇色の空間に風穴を開け。その向こうには元の場所ーー現実の景色が確認出来た。
「逃がしはせん!!」
しかし悪魔はそのまま骸骨天狗にしがみつく。装飾がすぐに悪魔の身を打つが、その腕が骸骨天狗を放すことはない。また空間の靄の全てが二者ごと縛り付けんと四方八方から押し寄せる。その時だったーー。ブレスレットが一際大きく輝き、その瞬間、全てを払い除けた。骸骨天狗は全速力で駆け出し、そのまま闇色の空間から、現実へと帰還した。悪魔の怨嗟の声が帰還して尚も花森健人の耳に残っていた。
しかし悪魔はそのまま骸骨天狗にしがみつく。装飾がすぐに悪魔の身を打つが、その腕が骸骨天狗を放すことはない。また空間の靄の全てが二者ごと縛り付けんと四方八方から押し寄せる。その時だったーー。ブレスレットが一際大きく輝き、その瞬間、全てを払い除けた。骸骨天狗は全速力で駆け出し、そのまま闇色の空間から、現実の夜道へと帰還した。悪魔の怨嗟の声が帰還して尚も花森健人の耳に残っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

"私に出来るのは、ここまで"
リュミエからのメッセージが、水面のような煌めきを揺らす。それは、星の回廊にある花森健人の意識ーー朧気な逆光の影となった彼に向けられた言葉だった。
「えっ…」
"私自身、私とあなたを見つけられたのが奇跡で"
声音が聞こえるわけでもなく、また姿が見えるわけでもない。しかしその言葉に、健人は言い様のない寂しさを覚えた。
「ちょっと待ってくれよ、まだ何も」
"この場所と力だけでも、あなたに"
"だからこの場所と力だけでも、あなたに"
「待てって!…」
リュミエもまた、訳のわからない超常現象の一つ。その認識しか未だ持てないとはいえ、そのメッセージと響鳴が無ければ、自分は死んでいただろう。
リュミエもまた、訳のわからない超常現象の一つ。その認識しか未だ持てないとはいえ、そのメッセージと響鳴が無ければ、自分は死んでいただろう。だというのにーー
「まだお礼も言ってないだろう」
共に危機を乗り越えるべく、力を尽くしてくれた人物に、礼を欠くまで腐ったつもりはない。何より一時でも相乗りした人に、このまま何もわからず消えられるなど、受け入れられなかった。
"なら、名前を呼んで欲しい"
"なら、名前を呼んで欲しい。もう一度"
「名前…」
一瞬の間の後に、そんなメッセージが届く。リュミエの思いを知ることは出来なかったし、状況は相も変わらず理解できない。
"叶うなら、花森健人…私の名前を"
"叶うなら、花森健人…どうか"
だが、リュミエが大切なことを言っていることは感じ取れた。人の名前とは、そういうものだと思うから。
「リュミエ、ありがとう」
故に見えずとも、遠く離れた人の感謝を告げた。
故に見えずとも、遠く離れた誰かの名を称え、また感謝を告げた。
"見つけられて良かった"
瞬間、その言葉を最後に、テレビのスイッチを切ったように、星の回廊の光景も健人の意識も暗転した。瞬間、その言葉を最後に、テレビのスイッチを切ったように、星の回廊の光景も健人の意識も暗転した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「エヴルアが消えた」
朝憬市中央部、西寄りの繁華街。ネオンの淡い光が灯るとあるビルの屋上に、神父の姿があった。
「あーあ…これ、あたしらに皺寄せ来る?」
気だるげに告げられた言葉と現れるは、妙齢の女。華美なワンピースとブーツが演出する出で立ちが、ネオンの光を受けて一層映える。
「だろうな。君の魔石にでも、妙案を尋ねてはどうかね?」
「アンタいい趣味してるよね、昔から」
女は屋上の塀に寄りかかりながら言った。口から洩れる渇いた嗤いは、彼女が意が言葉と全く異なることを知らせている。しかし神父は彼女の言うところの"いい趣味"としての言葉を続けた。
「実に"錬金術師"らしいではないか、それこそ」
「そうだね、アンタの末路でも尋ねてみるか」
神父からの皮肉に、女ーー錬金術師は眼下に見える雑踏を行く人々から、神父を一瞥するとそう言い放つ。それに対し、神父は大仰に肩を竦めてみせた。
「それも実に興味深いが…今の優先事項は件の秘宝とイレギュラーだ。エヴルアとほぼ同時に奴のカルナが途絶えた」
「話振っといてバックレですか…それに最悪。アイツ適当な仕事してたとか?」
神父が言い切るよりも早く、錬金術師が大きく溜め息を吐き、苛立ちを滲ませて返す。対して神父は一つ息を吸い、目を虚空に向けて推察を述べ始めた。
「事は奴のテリトリーで起きた。そんな立場で、手は抜けんよ」
「なら、何が起きたと?」
「私の影魔に後を追わせたが、その個体の反応も後に途絶えた」      

宙を舞う羽衣の装飾から打ち出された光線が悪魔に迫る。しかし悪魔は難なくこれを往なし、また躱した。そこに跳躍しながら繰り出された骸骨天狗の剣閃が衝撃波となって飛んで来る。悪魔が槍を大きく薙いでそれを弾くと、直後に骸骨天狗がそのまま再度鍔迫り合いに持ち込まんと飛び掛かった。しかし悪魔はそれに応じはしない。
「浅はかな真似を!」
その猛りと共に、槍の柄で骸骨天狗を殴り付け、そのまま体躯の捻りを加えた一撃をカウンターと打ち込む。しかしその一撃が骸骨天狗の身を打つことはなかった。そこにあったのは堅牢な甲殻を携え、異形となった彼の右腕。それが悪魔の渾身の一撃を防いでいた。そのまま骸骨天狗は甲殻の右腕に備わる鉾で、悪魔を貫き、更にそこから強大な光線を撃った。
直後に響くは悪魔の叫び。光線はそのまま闇色の空間に風穴を開け。その向こうには元の場所ーー現実の景色が確認出来た。
「逃がしはせん!!」
しかし悪魔はそのまま骸骨天狗にしがみつく。装飾がすぐに悪魔の身を打つが、その腕が骸骨天狗を放すことはない。また空間の靄の全てが二者ごと縛り付けんと四方八方から押し寄せる。その時だったーー。ブレスレットが一際大きく輝き、その瞬間、全てを払い除けた。骸骨天狗は全速力で駆け出し、そのまま闇色の空間から、現実の夜道へと帰還した。悪魔の怨嗟の声が帰還して尚も花森健人の耳に残っていた。

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"私に出来るのは、ここまで"
リュミエからのメッセージが、水面のような煌めきを揺らす。それは、星の回廊にある花森健人の意識ーー朧気な逆光の影となった彼に向けられた言葉だった。
「えっ…」
"私自身、私とあなたを見つけられたのが奇跡で"
声音が聞こえるわけでもなく、また姿が見えるわけでもない。しかしその言葉に、健人は言い様のない寂しさを覚えた。
「ちょっと待ってくれよ、まだ何も」
"だからこの場所と力だけでも、あなたに"
「待てって!…」
リュミエもまた、訳のわからない超常現象の一つ。その認識しか未だ持てないとはいえ、そのメッセージと響鳴が無ければ、自分は死んでいただろう。だというのにーー
「まだお礼も言ってないだろう」
共に危機を乗り越えるべく、力を尽くしてくれた人物に、礼を欠くまで腐ったつもりはない。何より一時でも相乗りした人に、このまま何もわからず消えられるなど、受け入れられなかった。
"なら、名前を呼んで欲しい。もう一度"
「名前…」
一瞬の間の後に、そんなメッセージが届く。リュミエの思いを知ることは出来なかったし、状況は相も変わらず理解できない。
"叶うなら、花森健人…どうか"
だが、リュミエが大切なことを言っていることは感じ取れた。人の名前とは、そういうものだと思うから。
「リュミエ、ありがとう」
故に見えずとも、遠く離れた誰かの名を称え、また感謝を告げた。
"見つけられて良かった"
瞬間、その言葉を最後に、テレビのスイッチを切ったように、星の回廊の光景も健人の意識も暗転した。

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「エヴルアが消えた」
朝憬市中央部、西寄りの繁華街。ネオンの淡い光が灯るとあるビルの屋上に、神父の姿があった。
「あーあ…これ、あたしらに皺寄せ来る?」
気だるげに告げられた言葉と現れるは、妙齢の女。華美なワンピースとブーツが演出する出で立ちが、ネオンの光を受けて一層映える。
「だろうな。君の魔石にでも、妙案を尋ねてはどうかね?」
「アンタいい趣味してるよね、昔から」
女は屋上の塀に寄りかかりながら言った。口から洩れる渇いた嗤いは、彼女が意が言葉と全く異なることを知らせている。しかし神父は彼女の言うところの"いい趣味"としての言葉を続けた。
「実に"錬金術師"らしいではないか、それこそ」
「そうだね、アンタの末路でも尋ねてみるか」
神父からの皮肉に、女ーー錬金術師は眼下に見える雑踏を行く人々から、神父を一瞥するとそう言い放つ。それに対し、神父は大仰に肩を竦めてみせた。
「それも実に興味深いが…今の優先事項は件の秘宝とイレギュラーだ。エヴルアとほぼ同時に奴のカルナが途絶えた」
「話振っといてバックレですか…それに最悪。アイツ適当な仕事してたとか?」
神父が言い切るよりも早く、錬金術師が大きく溜め息を吐き、苛立ちを滲ませて返す。対して神父は一つ息を吸い、目を虚空に向けて推察を述べ始めた。
「事は奴のテリトリーで起きた。そんな立場で、手は抜けんよ」
「なら、何が起きたと?」
「私の影魔に後を追わせたが、その個体の反応も後に途絶えた」