No.2 4/4 version 6

2021/10/24 16:11 by someone
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No.2 4/4
「何か起きた…?」
「まさか…!?」
事態が判然としない中、叫びが聞こえた学外の様子を探るべく、小走りで駆ける二人。宵闇の中、学外に面する窓を開け、街灯の灯りを頼りにその周囲を見渡す。
「何だあれ!ヤバいだろ!」
「逃げた方がいい!危ない!」
まだキャンパス内に残っていたその付近の学生が、声を上げながら何かに背を向けて逃げ去る姿が見えた。そこから反対方向へ視野を向けるとそこには…男子学生の胸部に節足を沈ませ、そこから湧き出す闇色を浴びる異形の姿があった。肩部や前腕、腰部や膝部外側から左右に突きだした節足、そして頭部の八つ目が蜘蛛を想起させる。
「やっぱりいたのか…」
動揺しながらも横尾がポツリと言った。健人は横尾に「逃げよう、ここは危ない」と呼びかけ走ろうとする。しかし横尾はそこから動こうとせず口元に手を当て、ぐったりした男子学生と蜘蛛の様を見つめていた。宵闇が覆うその光景を、さながら憑りつかれたように見つめる横尾に健人は強い声を上げる。
「横尾!」
「…花森、君は先に逃げろ。俺はこの機会をふいにはできない」
一瞬耳を疑った。何考えてんだこいつ…事件を追いながら、奴らがどれだけ危険か分かってない…
「おい、どういうことだよそれ!早く逃げないと…!」
健人が語気を荒げて言うと、すぐに「静かに…」と制する言葉が返ってきた。意味が分からない、ふざけてんのか!?…あの真剣な表情は何だったんだよ!そう思いながら横尾の腕を掴んで引きずろうとしたとき、二人に反応した蜘蛛がこちらを向いた。そのまま跳躍して西棟の外壁にへばり付くと、三回の窓を目指して勢いをつけて登ってくる。明らかにヤバい…
「早く!逃げないとやられる!!」
「…っ!」
ようやく二人は走り出すも蜘蛛はたちまち登る速度を上げて迫ってくる。数秒後には二人のいた窓から三階に侵入しそのまま追ってきた。間に合わない、追いつかれる———二人は足がもつれそうになりながらも必死で走ったが、蜘蛛は節足を用いて縦横無尽に跳躍し、驚異的速度で駆けてくる。
「はぁっ、はぁっ……うぅっ…」
息が切れる。もう逃げきれない…追い討ちをかけんと蜘蛛はその口から糸を吐き、健人の左脚を絡めとって転倒させた。
息が切れる。もう逃げきれない…追い討ちをかけんと蜘蛛は再度糸を吐き、健人の左脚を絡めとって転倒させた。
「はっ!…うわぁ!」
「花森っ!」
横尾がすぐにその糸を引きちぎろうとするも、糸はあまりにも強靭であり到底不可能だった。その様に追い詰めたとばかりに蜘蛛が歩んで迫る。
「…ハあアぁぁ」
その息遣いと共に腕から伸びる節足が爪のように構えられ、今にも獲物を貫かんとする。
「そコにいた、オまえタチが悪イ」
健人も横尾も恐怖に身をすくませるが、健人は何とかその言葉を振り絞って言った。
「早く逃げろ横尾、行けっ!」
「…すまん、俺のせいだ…」
だが横尾はその言葉を聞かず、決死の思いで蜘蛛に突進しその腰部に掴みかかる。
「うああああぁぁぁぁ!!」
”あの時”何があったかを突き止めたいばかりに、花森の呼びかけを聞かなかったから逃げ遅れた。既に怪物に襲われたという彼をこんな事態に巻き込んでしまったなんて…こんなんじゃ”あいつ”に何て言われるか。せめて花森だけでも…
「ヌウうっ!」
しかし横尾のそんな思いも空しく、蜘蛛の節足の爪が彼を切りつけると怪物の腕がその身体を引きはがして投げ飛ばした。その衝撃に横尾は昏倒し、微かには動くものの立ち上がることができない。
「クソっ!」
「…終わリだ」
ここまでか…いよいよそう思われた時、健人は無意識に胸元のお守り———キーホルダーを握っていた。瞬間、そこに宿る星の光が強く輝き健人の身体を白銀の姿へと変える。そのまま蜘蛛が光に怯んだ隙に、白銀はその身に太刀を突き立てた。
「…っ、変ワった!」
「貴様ガ…!」
そのまま白銀は蜘蛛を強く蹴りつけ、その身を吹っ飛ばす。
「グううッ!」
距離が開いたその隙に、白銀は横尾の下に向かい、彼の状態を確認した。
「ヨコオ…!……息がアる…」
衝撃が強かったために気を失っているが死んではいない。その安全のため横尾の身体を体勢を確保すると、立ち上がってこちらに駆ける蜘蛛を迎え撃つ。
「ソうか…貴様がネーゲルの…」
身を起こしながら蜘蛛はそう呟いた。そのまま鋭く迫る八本の節足を、白銀は横尾を守るべく太刀で切り払って交わす。すぐさま蜘蛛の口から糸で生成された弾丸が射出されるも、凄まじい勢いで振り下ろした白銀の剣圧、その衝撃が弾丸を弾き飛ばした。西棟三階の廊下は、その人知を超えた戦闘でひどく荒らされるも、それに構う余裕はない。白銀はそのまま一気に蜘蛛に接近し、雷光をその刀身に纏わせる。そしてその身を袈裟懸けに切り裂かんと太刀を振り上げ斬りかかった。しかし蜘蛛は節足の全てを手元に戻し、その斬撃を防ごうと構えこれを受け止める。
「ネーゲル…アの烏ノことか…お前ら一体何なンだ!?」
「コちらノ台詞だ!」
白銀は舌打ちすると叫びと共に太刀に力を籠め、太刀に纏わせた雷光の出力を上げた。節足はじりじりと圧されていく。
「あアアあぁぁぁぁっ!!」
「ヌあアアぁァぁ!」
蜘蛛もそれを堪えようと叫びをあげるも、やがて節足はその耐久力を超え一気に八本全てが斬り捌かれて吹き飛んだ。すぐさまその身が切りつけられ、接近戦に用いる節足を失った蜘蛛は、その瞬間自身の死を悟る。不覚を取った。逃げ惑うその様を獲物のそれと認識したが、まさかこの男だったとは…この八つ目も騙されたな。だが…蜘蛛はそこで白銀の身体に掴みかかり、ゼロ距離で糸の弾丸を浴びせる。
「クソったレがぁ!」
頭部や上半身に感じるダメージ。白銀はそれに対する怒声と共に、太刀を逆手に持って蜘蛛の身体を刺し貫いた。
「グ、ガああアァァぁぁぁ!」
その断末魔を聞きながら、太刀を通じて何かを砕いた感触が白銀の手に伝わる。それらを最後に、蜘蛛の身体は闇色の霞と消えた———
「ハアっ、ハアっ…はあっ…」
息が切れ、白銀だった身体は花森健人の姿に戻った。手に残るのは、嫌悪感。何かを———言葉を交わした命を殺めたその感触。気持ち悪い。ただただ気持ちが悪い。健人はその嫌悪感と吐き気に目を見開き、えづいた。      

「何か起きた…?」
「まさか…!?」
事態が判然としない中、叫びが聞こえた学外の様子を探るべく、小走りで駆ける二人。宵闇の中、学外に面する窓を開け、街灯の灯りを頼りにその周囲を見渡す。
「何だあれ!ヤバいだろ!」
「逃げた方がいい!危ない!」
まだキャンパス内に残っていたその付近の学生が、声を上げながら何かに背を向けて逃げ去る姿が見えた。そこから反対方向へ視野を向けるとそこには…男子学生の胸部に節足を沈ませ、そこから湧き出す闇色を浴びる異形の姿があった。肩部や前腕、腰部や膝部外側から左右に突きだした節足、そして頭部の八つ目が蜘蛛を想起させる。
「やっぱりいたのか…」
動揺しながらも横尾がポツリと言った。健人は横尾に「逃げよう、ここは危ない」と呼びかけ走ろうとする。しかし横尾はそこから動こうとせず口元に手を当て、ぐったりした男子学生と蜘蛛の様を見つめていた。宵闇が覆うその光景を、さながら憑りつかれたように見つめる横尾に健人は強い声を上げる。
「横尾!」
「…花森、君は先に逃げろ。俺はこの機会をふいにはできない」
一瞬耳を疑った。何考えてんだこいつ…事件を追いながら、奴らがどれだけ危険か分かってない…
「おい、どういうことだよそれ!早く逃げないと…!」
健人が語気を荒げて言うと、すぐに「静かに…」と制する言葉が返ってきた。意味が分からない、ふざけてんのか!?…あの真剣な表情は何だったんだよ!そう思いながら横尾の腕を掴んで引きずろうとしたとき、二人に反応した蜘蛛がこちらを向いた。そのまま跳躍して西棟の外壁にへばり付くと、三回の窓を目指して勢いをつけて登ってくる。明らかにヤバい…
「早く!逃げないとやられる!!」
「…っ!」
ようやく二人は走り出すも蜘蛛はたちまち登る速度を上げて迫ってくる。数秒後には二人のいた窓から三階に侵入しそのまま追ってきた。間に合わない、追いつかれる———二人は足がもつれそうになりながらも必死で走ったが、蜘蛛は節足を用いて縦横無尽に跳躍し、驚異的速度で駆けてくる。
「はぁっ、はぁっ……うぅっ…」
息が切れる。もう逃げきれない…追い討ちをかけんと蜘蛛は再度糸を吐き、健人の左脚を絡めとって転倒させた。
「はっ!…うわぁ!」
「花森っ!」
横尾がすぐにその糸を引きちぎろうとするも、糸はあまりにも強靭であり到底不可能だった。その様に追い詰めたとばかりに蜘蛛が歩んで迫る。
「…ハあアぁぁ」
その息遣いと共に腕から伸びる節足が爪のように構えられ、今にも獲物を貫かんとする。
「そコにいた、オまえタチが悪イ」
健人も横尾も恐怖に身をすくませるが、健人は何とかその言葉を振り絞って言った。
「早く逃げろ横尾、行けっ!」
「…すまん、俺のせいだ…」
だが横尾はその言葉を聞かず、決死の思いで蜘蛛に突進しその腰部に掴みかかる。
「うああああぁぁぁぁ!!」
”あの時”何があったかを突き止めたいばかりに、花森の呼びかけを聞かなかったから逃げ遅れた。既に怪物に襲われたという彼をこんな事態に巻き込んでしまったなんて…こんなんじゃ”あいつ”に何て言われるか。せめて花森だけでも…
「ヌウうっ!」
しかし横尾のそんな思いも空しく、蜘蛛の節足の爪が彼を切りつけると怪物の腕がその身体を引きはがして投げ飛ばした。その衝撃に横尾は昏倒し、微かには動くものの立ち上がることができない。
「クソっ!」
「…終わリだ」
ここまでか…いよいよそう思われた時、健人は無意識に胸元のお守り———キーホルダーを握っていた。瞬間、そこに宿る星の光が強く輝き健人の身体を白銀の姿へと変える。そのまま蜘蛛が光に怯んだ隙に、白銀はその身に太刀を突き立てた。
「…っ、変ワった!」
「貴様ガ…!」
そのまま白銀は蜘蛛を強く蹴りつけ、その身を吹っ飛ばす。
「グううッ!」
距離が開いたその隙に、白銀は横尾の下に向かい、彼の状態を確認した。
「ヨコオ…!……息がアる…」
衝撃が強かったために気を失っているが死んではいない。その安全のため横尾の身体を体勢を確保すると、立ち上がってこちらに駆ける蜘蛛を迎え撃つ。
「ソうか…貴様がネーゲルの…」
身を起こしながら蜘蛛はそう呟いた。そのまま鋭く迫る八本の節足を、白銀は横尾を守るべく太刀で切り払って交わす。すぐさま蜘蛛の口から糸で生成された弾丸が射出されるも、凄まじい勢いで振り下ろした白銀の剣圧、その衝撃が弾丸を弾き飛ばした。西棟三階の廊下は、その人知を超えた戦闘でひどく荒らされるも、それに構う余裕はない。白銀はそのまま一気に蜘蛛に接近し、雷光をその刀身に纏わせる。そしてその身を袈裟懸けに切り裂かんと太刀を振り上げ斬りかかった。しかし蜘蛛は節足の全てを手元に戻し、その斬撃を防ごうと構えこれを受け止める。
「ネーゲル…アの烏ノことか…お前ら一体何なンだ!?」
「コちらノ台詞だ!」
白銀は舌打ちすると叫びと共に太刀に力を籠め、太刀に纏わせた雷光の出力を上げた。節足はじりじりと圧されていく。
「あアアあぁぁぁぁっ!!」
「ヌあアアぁァぁ!」
蜘蛛もそれを堪えようと叫びをあげるも、やがて節足はその耐久力を超え一気に八本全てが斬り捌かれて吹き飛んだ。すぐさまその身が切りつけられ、接近戦に用いる節足を失った蜘蛛は、その瞬間自身の死を悟る。不覚を取った。逃げ惑うその様を獲物のそれと認識したが、まさかこの男だったとは…この八つ目も騙されたな。だが…蜘蛛はそこで白銀の身体に掴みかかり、ゼロ距離で糸の弾丸を浴びせる。
「クソったレがぁ!」
頭部や上半身に感じるダメージ。白銀はそれに対する怒声と共に、太刀を逆手に持って蜘蛛の身体を刺し貫いた。
「グ、ガああアァァぁぁぁ!」
その断末魔を聞きながら、太刀を通じて何かを砕いた感触が白銀の手に伝わる。それらを最後に、蜘蛛の身体は闇色の霞と消えた———
「ハアっ、ハアっ…はあっ…」
息が切れ、白銀だった身体は花森健人の姿に戻った。手に残るのは、嫌悪感。何かを———言葉を交わした命を殺めたその感触。気持ち悪い。ただただ気持ちが悪い。健人はその嫌悪感と吐き気に目を見開き、えづいた。