No.2 2/2 version 38

2021/07/26 15:35 by someone
  :追加された部分   :削除された部分
(差分が大きい場合、文字単位では表示しません)
No.2 2/2
その太刀を挟んで白銀の淡く光る眼と烏の赤目とが交錯する。二組の眼光は、互いを射貫くかのように鋭い。
太刀を巡って力を掛け合う両者。その膂力が拮抗しているこの状況において、一瞬でも力の掛け方を間違えば即座に隙が生じ、相手に得物を与えてしまうことになる。強化された異形の身体能力での衝突において、それは致命的な事態だ。その脅威に駆り立てられながら十秒ほど続いたその拮抗は、一瞬にして崩れた。とうとう力が掛け違ったことで生じた一瞬。
「…はぁっ!」
その一瞬の虚を突いた白銀の右足が、烏の身を掃うように蹴り飛ばし、自身の胸に沈んでいた太刀を奪取したのである。白銀は沈んでいた太刀を自身から引き抜き、順手に持ち変える。そうして右手で握ったその柄から自身の念を込めた。それに呼応するかのように、太刀は刀身の色をそれまでの漆黒から輝く銀へと変える。その様を烏が憎々しげに見つめていた。
「あの光は何だ?お前は一体…」
「……」
烏からの問いに応えることはなく、白銀は瞬時に距離を詰める。超人的な身体能力による高速移動。その速度は先程まで生命的な危機にあった剣人の無力を置き去りにしていた。そのまま烏に斬りかからんと、白銀は太刀を振り上げる。しかし烏はその身を即座に翻し、振り下ろされる一太刀を躱した。そして予備の得物としての二振りの短刀を構え、再度告げる。
「応える気はない、か…」
「……」
白銀はただ黙って烏を見据える。そこから読み取れる意味はただ…敵意と殺意。それならばなんだ。なんてことはない…殺すだけだ。
「ならば…」
死ね。両者に共通する言葉はそれだけだった。理不尽な暴力で殺されるくらいなら、殺す。ただ眼前の敵を、屠る。単純な構図。異形の者たちが踊るように、叫ぶようにその偉大な力を振りかざすのみ。そんなどこかで見た特撮のような、幼稚な話。両者は駆けだし、ただ闘争の舞踏に酔う―――

——————————————————————————————

刀と短剣の閃きが交錯する。白と黒、異形の烏たちが回り、跳び、駆ける。生と死が肉薄する狭間。そこにあってこの二者の異形の相貌は、人間の表情とは異なりその機微を反映させることはない。都合がいい。ふとそう思う。相手の苦痛に歪む顔など、見てしまったところで何にもならないから…ただ怒りのまま、ただ我欲のまま、一息にやる。どうせただそれだけなのだから。
烏の二振りが白銀に迫る。一合、二合と打ち合い、三合目で振り下ろされた太刀と十字に組み合わされた二振りが鍔迫り合いとなった。今や白銀の得物となった太刀が、先ほどまで主だった烏にじりじりと迫る。
「……ちっ!」
ここまでの打ち合いの中で、烏は一つの確信を抱いた。少なくとも持っていた力の半分が奪われている。種はあの光か…拮抗していた膂力に加え、太刀が奪われた今、烏としては持てる技量を尽くして白銀との差を埋めている状況だった。先の太刀を巡った引き合いにおいて生じた一瞬の隙。あれは力を奪われたことが発覚するのが遅れたためのものだった。
―――不覚を取った…だが…!その膂力に任せた直線的な突進を、烏は既(すんで)のところで右に去なし(いなし)て躱す。同時に勢い余った白銀の身体とすれ違いざまになる刹那、合わせるように回転する烏。その左手にある短剣の閃きが白銀の背に傷を負わせ、一瞬よろめかせる。
「…ぐっ!」
続いて響く白銀の呻く声、攻勢の機会。烏の聴覚と赤い目は、それらを逃さなかった。一気に踏み込み、切り抜かんとする烏の二振りが白銀を襲う。
”獲った―――”
奴の膂力と俺の技量。勝ったのは俺だ。烏はそう確信した…はずだった。
「―――!!」
瞬間、烏の黒い身体に太刀の一閃が横一文字に刻まれていた。
”何が起きた…?まさか―――!”
白銀は”加速”した。
白銀は”加速”した。烏の二振りが、その斬撃の挙動を終えるよりも前に、それを上回る速度へと加速することで反撃に転じたのである。



























      

その太刀を挟んで白銀の淡く光る眼と烏の赤目とが交錯する。二組の眼光は、互いを射貫くかのように鋭い。
太刀を巡って力を掛け合う両者。その膂力が拮抗しているこの状況において、一瞬でも力の掛け方を間違えば即座に隙が生じ、相手に得物を与えてしまうことになる。強化された異形の身体能力での衝突において、それは致命的な事態だ。その脅威に駆り立てられながら十秒ほど続いたその拮抗は、一瞬にして崩れた。とうとう力が掛け違ったことで生じた一瞬。
「…はぁっ!」
その一瞬の虚を突いた白銀の右足が、烏の身を掃うように蹴り飛ばし、自身の胸に沈んでいた太刀を奪取したのである。白銀は沈んでいた太刀を自身から引き抜き、順手に持ち変える。そうして右手で握ったその柄から自身の念を込めた。それに呼応するかのように、太刀は刀身の色をそれまでの漆黒から輝く銀へと変える。その様を烏が憎々しげに見つめていた。
「あの光は何だ?お前は一体…」
「……」
烏からの問いに応えることはなく、白銀は瞬時に距離を詰める。超人的な身体能力による高速移動。その速度は先程まで生命的な危機にあった剣人の無力を置き去りにしていた。そのまま烏に斬りかからんと、白銀は太刀を振り上げる。しかし烏はその身を即座に翻し、振り下ろされる一太刀を躱した。そして予備の得物としての二振りの短刀を構え、再度告げる。
「応える気はない、か…」
「……」
白銀はただ黙って烏を見据える。そこから読み取れる意味はただ…敵意と殺意。それならばなんだ。なんてことはない…殺すだけだ。
「ならば…」
死ね。両者に共通する言葉はそれだけだった。理不尽な暴力で殺されるくらいなら、殺す。ただ眼前の敵を、屠る。単純な構図。異形の者たちが踊るように、叫ぶようにその偉大な力を振りかざすのみ。そんなどこかで見た特撮のような、幼稚な話。両者は駆けだし、ただ闘争の舞踏に酔う―――

——————————————————————————————

刀と短剣の閃きが交錯する。白と黒、異形の烏たちが回り、跳び、駆ける。生と死が肉薄する狭間。そこにあってこの二者の異形の相貌は、人間の表情とは異なりその機微を反映させることはない。都合がいい。ふとそう思う。相手の苦痛に歪む顔など、見てしまったところで何にもならないから…ただ怒りのまま、ただ我欲のまま、一息にやる。どうせただそれだけなのだから。
烏の二振りが白銀に迫る。一合、二合と打ち合い、三合目で振り下ろされた太刀と十字に組み合わされた二振りが鍔迫り合いとなった。今や白銀の得物となった太刀が、先ほどまで主だった烏にじりじりと迫る。
「……ちっ!」
ここまでの打ち合いの中で、烏は一つの確信を抱いた。少なくとも持っていた力の半分が奪われている。種はあの光か…拮抗していた膂力に加え、太刀が奪われた今、烏としては持てる技量を尽くして白銀との差を埋めている状況だった。先の太刀を巡った引き合いにおいて生じた一瞬の隙。あれは力を奪われたことが発覚するのが遅れたためのものだった。
―――不覚を取った…だが…!その膂力に任せた直線的な突進を、烏は既(すんで)のところで右に去なし(いなし)て躱す。同時に勢い余った白銀の身体とすれ違いざまになる刹那、合わせるように回転する烏。その左手にある短剣の閃きが白銀の背に傷を負わせ、一瞬よろめかせる。
「…ぐっ!」
続いて響く白銀の呻く声、攻勢の機会。烏の聴覚と赤い目は、それらを逃さなかった。一気に踏み込み、切り抜かんとする烏の二振りが白銀を襲う。
”獲った―――”
奴の膂力と俺の技量。勝ったのは俺だ。烏はそう確信した…はずだった。
「―――!!」
瞬間、烏の黒い身体に太刀の一閃が横一文字に刻まれていた。
”何が起きた…?まさか―――!”
白銀は”加速”した。烏の二振りが、その斬撃の挙動を終えるよりも前に、それを上回る速度へと加速することで反撃に転じたのである。