No.3 3/3 version 62
No.3 3/3
「…最後に高山さんと話したのは、何時ですか?」
”人の話”を聞くことはもう苦痛ながらも、何か情報があれば見落としはできない。どうにか話を続けようと剣人は言葉を絞り出した。神経が昂っているのだろう。手足の痺れが収まる様子は見られない。
「今月の19日、電話で話した。その時にはもう怪物のことは言ってたよ…助けを求めてたんだろうな。他の誰かにもそのことは言っちゃってたみたいでさ、次の日には付き合いがある奴らがネタにしてた」
その言葉と共に横尾は視線を手元のコーヒーへと落とす。その目にはどこか愁いが宿っていた。
「それを知ったかのかどうなのかわからないけど、その後は電話もメールも出てくれないし、会えてない。俺は、何もしてやれない…」
「……」
そう呟く横尾の空虚に、剣人はかける言葉を持てなかった。知らず、顔がこわばる。もう聞きたくない。関係ない人の話を聴いたところで何になるんだ。
「だからかな…花森君が大変そうな高山と似たような顔でアイツのこと聞いてきたからか…初対面なのにマジでこんな話をしてる」
「…優しいんですね」
とりあえずはそれだけ返す。それだけ返すのが精一杯だった。対して横尾もまた苦笑してこれだけ言った。
「…そうでもないさ」
その言葉を聴きながら再度口に運んだコーヒーは、少しだけ温くなっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日4月28日の夕方、剣人は西朝憬駅前で横尾と待ち合わせていた。西朝憬は中心街としての朝憬に次いで二番目に大きい街であり、その街並みとしては種々の商業施設やデパート、スーパーや飲食店が立ち並んでいる。一方で視点を少し遠目に向ければ方々に山が見え、利便性と自然が両立した過ごしやすい土地といえた。駅前での人々の往来を眺めながら、剣人はふと思う。自分にとんでもないことが起きても、世界は今のところ平和だ。もちろんそんなものだろうとは思うし、自分も行き交う人々も、互いの事情は分からない。だがそこにはそれぞれの出来事が、それぞれの形で在る。それは二十歳近くにもなれば多少は見聞きしてきたつもりだ。
「……はぁ」
そう考えてはいるものの、どうにもため息は口をついて出る。昨日の情報共有の場では、最終的に横尾と共に高山と会うことになったのだが、正直億劫だった。あの後話し続けても、互いに抱えている事情が垣間見えるだけで、怪物に対しての有用な情報などはなかったからだ。
「別に人間の相手なんて、もうしたいわけじゃないのにな」
一人呟くその言葉は、誰に聞かれるでもなく夕焼けの朱に溶けていく。その時だった。剣人のスマートフォンの着信音が鳴る。取り出して画面を見ると、横尾の名前が表示されていた。待ち合わせに遅れるとかの連絡だろうか、憂鬱な思いながらも着信に応じる。
「もしもし、花森で―――」
「花森くんか!?そっちには行けなくなった!高山が…」
電話に出るや否や右耳に響く、動揺し焦る横尾の声。その焦燥に吊られてか、剣人も知らず早口になって状況を確認する。
「何があったんですか?」
「怪物が出て、人を襲ってる!高山は…高山はそいつに飲み込まれた…!」
その報せに、剣人の目は見開かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「横尾さん今何処ですか!?」
「…えっ」
報せに対してすぐにそう問う剣人の言葉は予想外だったのだろう。スマートフォンから彼の呆気に取られたような声が聞こえた。
「そこから早く離れて!」
「ああ、君もこっちには…うわぁぁっ!」
次の瞬間スマートフォンから響いたのは、激しい物音と横尾の悲鳴。そしてーーー
「アアアアァァァァーーーーー!!」
「横尾さん!?…横尾さんっ!!…クソっ!」
あまりにも突発的な事態に頭を抱えてしまう。どうすればいい…!!事が起きている場所もわからず、対処の方法もわからない。事態は明らかに危機的なのに、それを伝える術も見当たらない。明らかに助けるには困難を極める状況に、呪縛めいた言葉が脳裏を過る。
あまりにも突発的な事態に怯えている自分がいた。どうすればいい…!!事が起きている場所もわからず、対処の方法もわからない。事態は明らかに危機的なのに、それを伝える方法も見当たらない。出くわしてしまった最悪の状況に為す術もなく、呪縛めいた言葉が脳裏を過る。
"お前には何も出来ない。そういう風になってる"
うるさい!今そんなことほざいてる場合か…!!自身の内から拡がる諦念。そんな虚無に逃げ込むより、どうにか現実に対処せねばと思考を動かそうとするも、頭が上手く働かない。
うるさい!今そんなことほざいてる場合か…!!自身の内から拡がる諦念に逃げ込むより、どうにか現実に対処せねばと思考を動かそうと頭に当てた手に強く力が籠る。しかし思考が全く上手く働かない。
「…最後に高山さんと話したのは、何時ですか?」
”人の話”を聞くことはもう苦痛ながらも、何か情報があれば見落としはできない。どうにか話を続けようと剣人は言葉を絞り出した。神経が昂っているのだろう。手足の痺れが収まる様子は見られない。
「今月の19日、電話で話した。その時にはもう怪物のことは言ってたよ…助けを求めてたんだろうな。他の誰かにもそのことは言っちゃってたみたいでさ、次の日には付き合いがある奴らがネタにしてた」
その言葉と共に横尾は視線を手元のコーヒーへと落とす。その目にはどこか愁いが宿っていた。
「それを知ったかのかどうなのかわからないけど、その後は電話もメールも出てくれないし、会えてない。俺は、何もしてやれない…」
「……」
そう呟く横尾の空虚に、剣人はかける言葉を持てなかった。知らず、顔がこわばる。もう聞きたくない。関係ない人の話を聴いたところで何になるんだ。
「だからかな…花森君が大変そうな高山と似たような顔でアイツのこと聞いてきたからか…初対面なのにマジでこんな話をしてる」
「…優しいんですね」
とりあえずはそれだけ返す。それだけ返すのが精一杯だった。対して横尾もまた苦笑してこれだけ言った。
「…そうでもないさ」
その言葉を聴きながら再度口に運んだコーヒーは、少しだけ温くなっていた。
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翌日4月28日の夕方、剣人は西朝憬駅前で横尾と待ち合わせていた。西朝憬は中心街としての朝憬に次いで二番目に大きい街であり、その街並みとしては種々の商業施設やデパート、スーパーや飲食店が立ち並んでいる。一方で視点を少し遠目に向ければ方々に山が見え、利便性と自然が両立した過ごしやすい土地といえた。駅前での人々の往来を眺めながら、剣人はふと思う。自分にとんでもないことが起きても、世界は今のところ平和だ。もちろんそんなものだろうとは思うし、自分も行き交う人々も、互いの事情は分からない。だがそこにはそれぞれの出来事が、それぞれの形で在る。それは二十歳近くにもなれば多少は見聞きしてきたつもりだ。
「……はぁ」
そう考えてはいるものの、どうにもため息は口をついて出る。昨日の情報共有の場では、最終的に横尾と共に高山と会うことになったのだが、正直億劫だった。あの後話し続けても、互いに抱えている事情が垣間見えるだけで、怪物に対しての有用な情報などはなかったからだ。
「別に人間の相手なんて、もうしたいわけじゃないのにな」
一人呟くその言葉は、誰に聞かれるでもなく夕焼けの朱に溶けていく。その時だった。剣人のスマートフォンの着信音が鳴る。取り出して画面を見ると、横尾の名前が表示されていた。待ち合わせに遅れるとかの連絡だろうか、憂鬱な思いながらも着信に応じる。
「もしもし、花森で―――」
「花森くんか!?そっちには行けなくなった!高山が…」
電話に出るや否や右耳に響く、動揺し焦る横尾の声。その焦燥に吊られてか、剣人も知らず早口になって状況を確認する。
「何があったんですか?」
「怪物が出て、人を襲ってる!高山は…高山はそいつに飲み込まれた…!」
その報せに、剣人の目は見開かれた。
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「横尾さん今何処ですか!?」
「…えっ」
報せに対してすぐにそう問う剣人の言葉は予想外だったのだろう。スマートフォンから彼の呆気に取られたような声が聞こえた。
「そこから早く離れて!」
「ああ、君もこっちには…うわぁぁっ!」
次の瞬間スマートフォンから響いたのは、激しい物音と横尾の悲鳴。そしてーーー
「アアアアァァァァーーーーー!!」
「横尾さん!?…横尾さんっ!!…クソっ!」
あまりにも突発的な事態に怯えている自分がいた。どうすればいい…!!事が起きている場所もわからず、対処の方法もわからない。事態は明らかに危機的なのに、それを伝える方法も見当たらない。出くわしてしまった最悪の状況に為す術もなく、呪縛めいた言葉が脳裏を過る。
"お前には何も出来ない。そういう風になってる"
うるさい!今そんなことほざいてる場合か…!!自身の内から拡がる諦念に逃げ込むより、どうにか現実に対処せねばと思考を動かそうと頭に当てた手に強く力が籠る。しかし思考が全く上手く働かない。