霹天の弓 ー1章ー【第3話】

その後はどっと疲れていたのか、心羽は自宅に帰ると倒れこむように眠った。あまりに深く眠っていたものだから、次に起きた時には翌日の昼を迎えようとしていた。
「…ウソ⁉」
遥香との公園での約束を思い出して飛び上がった心羽は諸々の身支度も早々に、自室のある二階から一階へ階段を転がり落ちるように降りていく。せめて母に挨拶だけでもしようと、リビングに繋がる戸を「おはよう」の一言と共に急いで開けると…そこにいたのはテーブルを挟み、椅子に腰かけて談笑している詩乃と遥香。
「えっ」
思わず驚嘆の声が口を突いて出る心羽。その様子を見て三人の間に一瞬間が空く。それを受けて更に詩乃と遥香の口元から笑みが零れた。
「ちょっとまって、どゆこと⁉」
目の前の状況を飲み込めない心羽は、二人に問いたださずにはいられなかった。
「どういうことって、遥香ちゃんは心羽を待っててくれたのよ」
「いえ、私もお母さんと話せて楽しかったですし…昨日こっちゃん、ちょっと疲れてた様子だったから気になって。押しかけてしまって、何と言ったらいいか…すみません」
「いいのよ、遥香ちゃんのような子が一緒にいてくれて良かった。ね、お寝坊さん?」
ああ…そういうこと。昨日のことで疲れてたし、待ち合わせた公園に来なかったから…ここにいたのは驚いたけど、心配してくれたんだ。二人の話した内容から、心羽はようやく理解を追いつかせる。
「…来てたんなら、起こしてくれたってよかったのに。」
「だってあなた、ずっと起きなかったのよ?呼びかけても、肩トントンしても、ちょっとつねっても、ご飯ですよって言っても…ずーっとクカ~って。どうしたの一体?昨日もちょっと遅かったし」
その一連の事象を赤面しながら聞かされるとともに、母からの心配と疑問の声に何と答えたらいいか、心羽の口は「えっと、それは…」ともごもご動くものの、上手く言葉になりそうもない。
「だって、ほら、昨日はコーヒーが踊って大変だったんだから」
「もう。それどういう意味?」
心羽のなぞなぞに詩乃は困り顔を作ってみせる。
「帰るまでに考えててね…行こ、はるちゃん!」
詩乃にそう告げ、2人はささっと家を出る。向かった先は、ルクスカーデン二番街、木々の生い茂るモーヴル公園である。

END

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