10.書き換えと再構成 version 4

2023/12/24 10:44 by someone
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10.対峙と偽天使
上坂蓉子は夜の繁華街に小型の暗視カメラを向けていた。パニックに陥った人々と、襲撃あった現場周囲を封鎖する警官隊。そして街の惨状をフィルムに納める。フラッシュはほぼ豆電球程度しか焚けず、また付近の建物から遠巻きにこれらを撮影することしかできない。警官達に制止され、そこから圧力を掛けられかねないリスクや、検閲される可能性などは容易に想像できた。それ故の妥協案、苦肉の策だった。
だが本来なら確認できるだろう、倒れ伏した人の遺体が現場に見られない。それはこの妥協案やカメラの画素、画質などに因るものではないことを、蓉子は既に把握していた。そしてそれで犠牲者がゼロと言えるほど、気楽な話では到底ないことも。皆、苦痛と共にその生命を絶たれた。
遺体すら残らない彼らの存在の消失は、かえって言い様のない怖気を蓉子に抱かせる。街で破壊行為が行われた物理的痕跡は多々見られた。ガラスの破片やコンクリートの瓦礫、アスファルトの陥没。そして災禍を逃れた目撃者たち。せめて残ったものだけも掬い上げる。そんな思いで彼女はシャッターを続けて切ったその時、ヘリコプターの羽根の音が頭上に響いた。カメラの接写モードで上空を凝視すれば、要人輸送用のヘリが朝憬市中央塔に向けて飛んでいる。
「この状況で、どうして…」
抱いた異質な印象、不可解な事実。それ故に自身の口からこぼれ出た言葉は、蓉子を中央塔へと駆り立てた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

早く、早くーー。足が縺れる。より強く変身したそれであっても、身は重く倒れそうになる。しかし一秒でも早く中央塔へ辿り着かんと、健人は全速力で風よりも速く走った。
早く、早くーー。足が縺れる。より強く変身したそれであっても、身は重く倒れそうになる。しかし一秒でも早く中央塔へ辿り着かんと、健人は全速力で風よりも速く走った。
「ハッサン…!」
肩で息をしながら、小さく呟く友の名。止まるわけにはいかない。間に合わせるために、また友が失われる絶望に捕まらぬために。
「見えた…」
そうしてやがて、朝憬市中央塔をその眼に捉える。だがその時、健人は極限故かネーゲルの警告が聞こえず、また気付けなかった。上空からコウモリを思わせる姿をした影魔が、健人に向けて蹴を仕掛けてきたことに。
そうしてやがて、朝憬市中央塔をその眼に捉える。だがその時、健人は極限故かネーゲルの警告が聞こえず、また気付けなかった。上空からコウモリを思わせる姿をした影魔が、健人に向けて蹴を仕掛けてきたことに。
何が起きたのか、健人の脳は過負荷に状況把握ができない。ただ独りでに悲鳴を上げている自身がそこにいた。衝撃に舞う土埃の向こうには加えて四体、計五体の影魔の影。
「健人、俺が行ーー」
「あああぁぁぁーー!!」
ネーゲルの申し出より先に狂った叫びを上げて健人は五つの影目掛けて突撃した。だがその叫びはすぐに更なる悲鳴へと変わるのにそう時間はかからなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

朝憬市の上空を要人輸送用のヘリコプターが一機飛んでいた。その中に座したゾルドーが目を開き、閣下とアゼリア、そしてその傍らの少年に告げる。
「中央塔にて動きがあった。エヴルアだ。正確には奴の影魔だが」
「ふむ、頃合いだな。間もなくこの国の"友人"も、機を見て戦士たちに指示を出すということだ」
「…どこまでがあなたの筋書き?バベル」
閣下ーーバベルの言葉に、アゼリアが眉を寄せて問いを投げ掛けた。
「エヴルアの裏切りは、まだ後と考えていたよ。これは流石に早いに過ぎる」
「愚策を超えて気が触れている」
「だが奇を衒い、我々を脅かすという点に関しては効果的ではある」
冷たく、かつ苛立ってそう言い放つゾルドーとは対照的に、バベルは悠然かつ淡々と評価を述べた。
「おかげで大衆に我々の存在が露呈しかない。だがそれだけにアゼリア、君の策に助けられる」
「マッチポンプではあるけどね」
「なに、プロパガンダもマッチポンプも結構なこと。それが効果的なら使うまでの話だよ」
表情を崩さぬアゼリア、憮然としたゾルドー。彼らの態度を察しながらも、バベルはどこかあっけらかんとさえしてそう告げる。
「ふふ、大人っぽい言い方だね。バベル」
そんな三者の雰囲気に対し、少年がにこやかに言った。
「私は大人だよ、ゼン」
バベルにそう窘められながらも、少年は微笑を崩すことはなかった。

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上坂蓉子は夜の繁華街に小型の暗視カメラを向けていた。パニックに陥った人々と、襲撃あった現場周囲を封鎖する警官隊。そして街の惨状をフィルムに納める。フラッシュはほぼ豆電球程度しか焚けず、また付近の建物から遠巻きにこれらを撮影することしかできない。警官達に制止され、そこから圧力を掛けられかねないリスクや、撮影データなどを検閲される可能性などは容易に想像できた。それ故の妥協案、苦肉の策だった。
だが本来なら確認できるだろう、倒れ伏した人の遺体が現場に見られない。それはこの妥協案やカメラの画素、画質などに因るものではないことを、蓉子は既に把握していた。そしてそれで犠牲者がゼロと言えるほど、気楽な話では到底ないことも。皆、苦痛と共にその生命を絶たれた。
遺体すら残らない彼らの存在の消失は、かえって言い様のない怖気を蓉子に抱かせる。街で破壊行為が行われた物理的痕跡は多々見られた。ガラスの破片やコンクリートの瓦礫、アスファルトの陥没。そして災禍を逃れた目撃者たち。せめて残ったものだけも掬い上げる。そんな思いで彼女はシャッターを続けて切ったその時、ヘリコプターの羽根の音が頭上に響いた。カメラの接写モードで上空を凝視すれば、要人輸送用のヘリが朝憬市中央塔に向けて飛んでいる。
「この状況で、どうして…」
抱いた異質な印象、不可解な事実。それ故に自身の口からこぼれ出た言葉は、蓉子を中央塔へと駆り立てた。

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早く、早くーー。足が縺れる。より強く変身したそれであっても、身体は重く倒れそうになる。しかし一秒でも早く中央塔へ辿り着かんと、健人は全速力で風よりも速く走った。
「ハッサン…!」
肩で息をしながら、小さく呟く友の名。止まるわけにはいかない。間に合わせるために、また友が失われる絶望に捕まらぬために。
「見えた…」
そうしてやがて、朝憬市中央塔をその眼に捉える。だがその時、健人は極限故かネーゲルの警告が聞こえず、また気付けなかった。上空からコウモリを思わせる姿をした影魔が、健人に向けて蹴撃を仕掛けてきたことに。
何が起きたのか、健人の脳は過負荷に状況把握ができない。ただ独りでに悲鳴を上げている自身がそこにいた。衝撃に舞う土埃の向こうには加えて四体、計五体の影魔の影。
「健人、俺が行ーー」
「あああぁぁぁーー!!」
ネーゲルの申し出より先に狂った叫びを上げて健人は五つの影目掛けて突撃した。だがその叫びはすぐに更なる悲鳴へと変わるのにそう時間はかからなかった。

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朝憬市の上空を要人輸送用のヘリコプターが一機飛んでいた。その中に座したゾルドーが目を開き、閣下とアゼリア、そしてその傍らの少年に告げる。
「中央塔にて動きがあった。エヴルアだ。正確には奴の影魔だが」
「ふむ、頃合いだな。間もなくこの国の"友人"も、機を見て戦士たちに指示を出すということだ」
「…どこまでがあなたの筋書き?バベル」
閣下ーーバベルの言葉に、アゼリアが眉を寄せて問いを投げ掛けた。
「エヴルアの裏切りは、まだ後と考えていたよ。これは流石に早いに過ぎる」
「愚策を超えて気が触れている」
「だが奇を衒い、我々を脅かすという点に関しては効果的ではある」
冷たく、かつ苛立ってそう言い放つゾルドーとは対照的に、バベルは悠然かつ淡々と評価を述べた。
「おかげで大衆に我々の存在が露呈しかない。だがそれだけにアゼリア、君の策に助けられる」
「マッチポンプではあるけどね」
「なに、プロパガンダもマッチポンプも結構なこと。それが効果的なら使うまでの話だよ」
表情を崩さぬアゼリア、憮然としたゾルドー。彼らの態度を察しながらも、バベルはどこかあっけらかんとさえしてそう告げる。
「ふふ、大人っぽい言い方だね。バベル」
そんな三者の雰囲気に対し、少年がにこやかに言った。
「私は大人だよ、ゼン」
バベルにそう窘められながらも、少年は微笑を崩すことはなかった。

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上坂蓉子は夜の繁華街に小型の暗視カメラを向けていた。パニックに陥った人々と、襲撃あった現場周囲を封鎖する警官隊。そして街の惨状をフィルムに納める。フラッシュはほぼ豆電球程度しか焚けず、また付近の建物から遠巻きにこれらを撮影することしかできない。警官達に制止され、そこから圧力を掛けられかねないリスクや、撮影データなどを検閲される可能性などは容易に想像できた。それ故の妥協案、苦肉の策だった。
だが本来なら確認できるだろう、倒れ伏した人の遺体が現場に見られない。それはこの妥協案やカメラの画素、画質などに因るものではないことを、蓉子は既に把握していた。そしてそれで犠牲者がゼロと言えるほど、気楽な話では到底ないことも。皆、苦痛と共にその生命を絶たれた。
遺体すら残らない彼らの存在の消失は、かえって言い様のない怖気を蓉子に抱かせる。街で破壊行為が行われた物理的痕跡は多々見られた。ガラスの破片やコンクリートの瓦礫、アスファルトの陥没。そして災禍を逃れた目撃者たち。せめて残ったものだけも掬い上げる。そんな思いで彼女はシャッターを続けて切ったその時、ヘリコプターの羽根の音が頭上に響いた。カメラの接写モードで上空を凝視すれば、要人輸送用のヘリが朝憬市中央塔に向けて飛んでいる。
「この状況で、どうして…」
抱いた異質な印象、不可解な事実。それ故に自身の口からこぼれ出た言葉は、蓉子を中央塔へと駆り立てた。

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