星の心、健やかなるは――。 (仮提案) version 7

2024/06/02 11:13 by someone
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白紙ページ心、健やかなるは――。 (仮提案)
  目次:星狩りの賜主
遠い昔、ある辺境の星に、永遠の命を持った者がいた。彼の者は人として生きていた頃、人の欺瞞と欲望に溢れた醜悪な世界に嫌悪を抱き、それを変えられぬ自らの非力さに嘆いていた。
 その果てに彼の者は、ある星の力ーー"星創の核"を自らの手にし、汚濁の世界を洗浄し、清廉な生命の世界にしようとした。その愚かしい挑戦、暴走した正義は確かに叶えられはした。

それまでの彼の者の住む世界が滅ぶことで。

それと共に、彼の者は召し上がられた者達の命と対価に、老いる事ない屈強な肉体と永遠にも等しい命を星創にもたらされた。そしてまた、彼の者はある生命ーーエクリプスを造ることが出来るようになっていた。それは、彼の者が望んだ清廉な生命となり得た者達。彼の者の願いは確かに叶えられてはいた。

しかしそれは、彼の者が描いた理想への解が人類全ての否定だったことを意味する。耐え難い喪失を前に何度も涙を流し、自分の信じた正義を見つめ、後悔と葛藤を重ねる中で、彼の者の心は虚ろに堕ちていき、命そのものがわからなくなっていた。自身の命の味わいが、生命が在ることが、その意味が失われてしまった。そして、それが自身の絶望であることも認識しきれない程、彼の者は深く絶望していた。

星創の核は、彼の者が力を手にして世界を滅ぼして以来、その命と深く結びつき、また物質として取り出すことも出来ず、手放すことも出来ない不可逆なものとなっていた。そして永い時を経る中で、彼の者はかつて人だったことも、愛を知り美しさのわかる心があったことも、何もかも忘れていった。彼の者に残るは、ただ清廉なる世界へ導こうとしたその信念のみ。
 それと共にエクリプスも他者の絶望を喰らい貪る存在となり、また彼らから更に眷属の群体ーー影魔が生まれていく。それを見ながら、彼の者は自覚した。
「ああ、我々は命への絶望から生まれたのだ」
それが、彼の者が"星狩りの賜主"となった時だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目次:リュミエ
その後、ただひとつ残った正義を掲げ、賜主は幾つもの星々や銀河を巡り、絶望を以て清廉なる世界へと浄化の手を広げた。傍からすればそれは滅びとしか言えなかった。そしてその先に、ある"希望"ーーリュミエと邂逅する。彼女は星創の核を携えて人々の前に現れた。リュミエはその星にある人々の優しさと希望に慈しまれ、また彼女自身が賜主への抗いを望んだ。
 リュミエが掲げた正義は賜主と真っ向から対立するものだったが、賜主にとっては論ずるほどの価値もない、他力本願で醜悪な希望であった。しかし、彼女の存在は賜主に強烈な関心を抱かせた。
 "星創の力を持つものなら、自身の虚ろを、永きに渡る苦痛を終わらせうる。そうならずとも障害は廃せる"。
 そうして賜主はリュミエの前に降り立ち、片や希望を信じた力を、片や寄る辺を失くした刃を交える。そして——。

対決は僅かに賜主が勝り、リュミエは隙を突かれて最強のエクリプスーーマーニセレーネにその権能を奪われる。権能は星創の核の媒介という意味で、彼女を彼女足らしめていたものだった。リュミエは最期の力で星創の核を守りそこから逃れたが、程なくして彼女のそれまでは全て失われた。残ったのは、彼女の抜け殻としての存在のみ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目次:抜け殻から心羽へ
抜け殻はリュミエとしての記憶や名前も全て失っていた。
抜け殻は空っぽになったその身でひとり、ただ寒さに震えているところを近くの農村の者に見つかり保護される。
しかし、名前を聞いてもわからない。何処から来たかもわからない。家族も、引率の者もいない。農村の者たちはこの少女にどう対応したらいいかわからず、困り果てていた。
「私は誰の“家族”?」
抜け殻は村人とのやり取りを重ねる中で、人はみな“家族”というものがあり、それがない自分には居場所がないことを知る。誰の家族でもない自分がいることでみなが困っている現状に耐えられなくなった抜け殻は、3日も経たぬうちに農村から立ち去る。自分を生み育てた“親”という存在から家族なるものが連なっていることを聞き出していた抜け殻は過去を思い出そうとする。その過程で自身が“魔法”という類のない力の持ち主であることを思い出すと、唯一思い出せた転移の魔法を使って“家族”探しの旅に出た。
抜け殻は数多の星を巡り、いくつもの“家族”を目にしてきた。その温もりは全て、自分に向けられることはなく、悔しさと羨望だけが募る。胸の内に抱いた惨めな感情は長い旅のなかで燻り、吐き出せない苦しさを抱え、やがて抜け殻は“自分に家族などない”という諦念に呑まれ涙が溢れる。
そこに、ある青年が現れる。彼は人の世の無情と虚しさに怒り、だが自身の無力という現実に心を失くしかかっていた。青年は抜け殻に声をかけた。それは燎火を思わせるような、温かい声だった。その温もりに絆されるように、抜け殻は誰にも話したことのない心の内をはじめて打ち明ける。
(キーワード:「親もいない」「家族も友達もいない」「世界中のどこにもいない」「ひとりぼっち」「寂しいのは嫌」「切ないのは嫌」「私を見て」「認めてほしい」「温もりがほしい」「望まれたい」「愛されたい」……)
「私ね、世界で独りぼっちなんだ」
「全然知らない街に来て、家族も友達も誰もいなくて」
「こんなに宇宙は広いのに、その何処にも私の声は届かない」
「それじゃあ私は、なんのために生まれてきたの?」
青年は抜け殻の声を必死に聞いていた。暗がりのなかで表情は伺いしれないが、青年の温かな眼差しはたしかに抜け殻に向けられ、その声は悔しさに震えていた。
「なんでかな…一生懸命やってるのにね」
「ただ、ひどい話かもだけどさ。俺、ここで…君に会えて良かったな」
「…えっ」
抜け殻は驚きを隠せない。“会えてよかった”と、その邂逅を歓迎してくれる人はかつて一人もいなかった。この青年は、あるいは…。
「うん、ホントにひどい…多分今、君みたいな人と、話したかったんだ」
青年の言うひどい話とはどういう意味なのか、抜け殻にはわかなかった。ただ、抜け殻の眼差しを受け止める優しい声は、今にも崩れてしまいそうな脆さだった。
「もし、なんだけど…よかったら、なんだけど」
「独り言、言っていかない?」
「独り言?」
「うん、独り言。君の声は、俺に届くかもしれない。俺の声は、君に届くかもしれない」
青年に提案された“独り言”。その意味はわからなくても、どうしようもない惨めなこの感情の吐き出す先を、この青年は用意しようとしてくれている。その意図は伝わってきた。
あなたのほうが、壊れそうなのに。
「だから、何ていうかな…自分と、お互いを助けるつもりで、さ…」

互いの内を吐き出していくなかで二人は友となり、青年は抜け殻に名前を与えた。"燎星心羽"ーーそれが彼女に与えられた名前だった。心羽は友という絆をくれた青年に、自身が身につけていたブレスレットを渡した。友自らが名を与えた“燎星心羽”という存在を、その記憶に刻みたかったから。

ポイント
・このとき、心羽は青年(当時高校二年)の顔も名前も知らない。
・二人の出会いは一夜限りのことで、心羽は翌朝に朝憬市を立ち去っている。
・青年の心の苦しみを理解できるほど心羽の感受性は成熟しておらず、この日のことに後ろめたさや罪悪感はない。
・この出会いを通じて心羽の心境が変化する。青年のような優しい心を他者に向けられる、『優しいことができる人』になりたいと憧れるようになる。
・青年は心羽の事実上の名付け親でもある。本当の親ではないとはいえ、その存在は心羽の親探しの旅に一応の決着をつけてくれた。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目次:賜主から健人へ 
 リュミエに勝りこそした賜主(=仮名ネーゲル)もまた、不死よりも大きな傷を負った。故にこの時、星創は賜主の生命をある地球人に転生させた。先の青年、花森健人こそ賜主の転生体。彼はあくまで普通の人間、或いはそれ以下の無為、無力、苦痛を今一度味わうこととなる。またエクリプスらは主が消えて種としての統制が利かなくなった状態で、その中核派は十数年の間彼を探し、また待ち続けていた。
事態が急転したのは物語冒頭。大学二年となった花森健人は、塞がらぬ虚無感と諦観に、遂に自死を図ろうとしていた。だがその強い絶望を近くで感じた影魔が健人を襲った瞬間、心羽からのブレスレットを呼び水に、混ざり合った星創の力が目覚める。以降は健人の周りにエクリプスや影魔が立て続けに現れることになる。

 このエクリプスや影魔出現の背景として、健人の力の発現に状況を理解したエクリプスらが、箱舟などの圧倒的な戦力を以て政府に花森健人の情報と朝憬市への入植を要求。政府はこれを呑んでしまう。
彼らが朝憬市にのみ現れる理由は、賜主を連れ戻すための花森健人の拉致。だが健人はもちろん賜主もこれに何故か応じない。(心羽との出会いの影響である)
 故に花森健人や彼に関わった人に刺客を向け、連れ戻しに失敗しても刺客を供物とすることで賜主の復活を促し、自身らの下に主が戻ることをエクリプスは目論んでいる。
 一方で賜主復活はエクリプスにとって最優先事項であるが、他の土地やその住民を巻き込むような大事にしては、政府関係者が花森健人をどうするか分からない。故にエクリプスは食料としての朝憬市住民と花森健人以外に手を出さず、政府関係者もこの2つへの不干渉と箝口令を敷いている。こうした密約が政府とエクリプスとで交わされ、均衡状態にあるのが、作中序盤の朝憬市の状況。

 賜主は基本的に健人の中で息を潜めて休眠しており、かつ古巣に戻る気は現在ない。あくまで健人は普通の人間として存在している。そのため健人は不死ではなく、また健人が死ねば賜主も目覚めることはない。故に刺客は健人を決して殺めることなきよう、基本少人数で襲い来る。一方でブレスレット=心羽より与えられた星創の力の打破を目指してもいる。
 またエクリプスらが大規模な勢力を有しながら、朝憬市に少数のみ配置されているのは、大勢では現地での食料問題——絶望の調達のために朝憬市住民を襲撃して大被害を与えてしまうことが予見された。若しくは他の土地の者にまで被害が出るようなことになれば、上記の密約と均衡が崩れるため、そして主の統制を失い無軌道となった分離エクリプス派閥がいることもあり、基本的に他のエクリプスの軍勢は作中序盤は別行動している。


これは心羽がその絆を以て健人を守り、健人が心羽との友愛に足掻くことで、業苦にあった魂(賜主)と、失われた希望(リュミエ)を救う物語である——。
      

目次:星狩りの賜主
遠い昔、ある辺境の星に、永遠の命を持った者がいた。彼の者は人として生きていた頃、人の欺瞞と欲望に溢れた醜悪な世界に嫌悪を抱き、それを変えられぬ自らの非力さに嘆いていた。
 その果てに彼の者は、ある星の力ーー"星創の核"を自らの手にし、汚濁の世界を洗浄し、清廉な生命の世界にしようとした。その愚かしい挑戦、暴走した正義は確かに叶えられはした。

それまでの彼の者の住む世界が滅ぶことで。

それと共に、彼の者は召し上がられた者達の命と対価に、老いる事ない屈強な肉体と永遠にも等しい命を星創にもたらされた。そしてまた、彼の者はある生命ーーエクリプスを造ることが出来るようになっていた。それは、彼の者が望んだ清廉な生命となり得た者達。彼の者の願いは確かに叶えられてはいた。

しかしそれは、彼の者が描いた理想への解が人類全ての否定だったことを意味する。耐え難い喪失を前に何度も涙を流し、自分の信じた正義を見つめ、後悔と葛藤を重ねる中で、彼の者の心は虚ろに堕ちていき、命そのものがわからなくなっていた。自身の命の味わいが、生命が在ることが、その意味が失われてしまった。そして、それが自身の絶望であることも認識しきれない程、彼の者は深く絶望していた。

星創の核は、彼の者が力を手にして世界を滅ぼして以来、その命と深く結びつき、また物質として取り出すことも出来ず、手放すことも出来ない不可逆なものとなっていた。そして永い時を経る中で、彼の者はかつて人だったことも、愛を知り美しさのわかる心があったことも、何もかも忘れていった。彼の者に残るは、ただ清廉なる世界へ導こうとしたその信念のみ。
 それと共にエクリプスも他者の絶望を喰らい貪る存在となり、また彼らから更に眷属の群体ーー影魔が生まれていく。それを見ながら、彼の者は自覚した。
「ああ、我々は命への絶望から生まれたのだ」
それが、彼の者が"星狩りの賜主"となった時だった。

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目次:リュミエ
その後、ただひとつ残った正義を掲げ、賜主は幾つもの星々や銀河を巡り、絶望を以て清廉なる世界へと浄化の手を広げた。傍からすればそれは滅びとしか言えなかった。そしてその先に、ある"希望"ーーリュミエと邂逅する。彼女は星創の核を携えて人々の前に現れた。リュミエはその星にある人々の優しさと希望に慈しまれ、また彼女自身が賜主への抗いを望んだ。
 リュミエが掲げた正義は賜主と真っ向から対立するものだったが、賜主にとっては論ずるほどの価値もない、他力本願で醜悪な希望であった。しかし、彼女の存在は賜主に強烈な関心を抱かせた。
 "星創の力を持つものなら、自身の虚ろを、永きに渡る苦痛を終わらせうる。そうならずとも障害は廃せる"。
 そうして賜主はリュミエの前に降り立ち、片や希望を信じた力を、片や寄る辺を失くした刃を交える。そして——。

対決は僅かに賜主が勝り、リュミエは隙を突かれて最強のエクリプスーーマーニセレーネにその権能を奪われる。権能は星創の核の媒介という意味で、彼女を彼女足らしめていたものだった。リュミエは最期の力で星創の核を守りそこから逃れたが、程なくして彼女のそれまでは全て失われた。残ったのは、彼女の抜け殻としての存在のみ。

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目次:抜け殻から心羽へ
抜け殻はリュミエとしての記憶や名前も全て失っていた。
抜け殻は空っぽになったその身でひとり、ただ寒さに震えているところを近くの農村の者に見つかり保護される。
しかし、名前を聞いてもわからない。何処から来たかもわからない。家族も、引率の者もいない。農村の者たちはこの少女にどう対応したらいいかわからず、困り果てていた。
「私は誰の“家族”?」
抜け殻は村人とのやり取りを重ねる中で、人はみな“家族”というものがあり、それがない自分には居場所がないことを知る。誰の家族でもない自分がいることでみなが困っている現状に耐えられなくなった抜け殻は、3日も経たぬうちに農村から立ち去る。自分を生み育てた“親”という存在から家族なるものが連なっていることを聞き出していた抜け殻は過去を思い出そうとする。その過程で自身が“魔法”という類のない力の持ち主であることを思い出すと、唯一思い出せた転移の魔法を使って“家族”探しの旅に出た。
抜け殻は数多の星を巡り、いくつもの“家族”を目にしてきた。その温もりは全て、自分に向けられることはなく、悔しさと羨望だけが募る。胸の内に抱いた惨めな感情は長い旅のなかで燻り、吐き出せない苦しさを抱え、やがて抜け殻は“自分に家族などない”という諦念に呑まれ涙が溢れる。
そこに、ある青年が現れる。彼は人の世の無情と虚しさに怒り、だが自身の無力という現実に心を失くしかかっていた。青年は抜け殻に声をかけた。それは燎火を思わせるような、温かい声だった。その温もりに絆されるように、抜け殻は誰にも話したことのない心の内をはじめて打ち明ける。
(キーワード:「親もいない」「家族も友達もいない」「世界中のどこにもいない」「ひとりぼっち」「寂しいのは嫌」「切ないのは嫌」「私を見て」「認めてほしい」「温もりがほしい」「望まれたい」「愛されたい」……)
「私ね、世界で独りぼっちなんだ」
「全然知らない街に来て、家族も友達も誰もいなくて」
「こんなに宇宙は広いのに、その何処にも私の声は届かない」
「それじゃあ私は、なんのために生まれてきたの?」
青年は抜け殻の声を必死に聞いていた。暗がりのなかで表情は伺いしれないが、青年の温かな眼差しはたしかに抜け殻に向けられ、その声は悔しさに震えていた。
「なんでかな…一生懸命やってるのにね」
「ただ、ひどい話かもだけどさ。俺、ここで…君に会えて良かったな」
「…えっ」
抜け殻は驚きを隠せない。“会えてよかった”と、その邂逅を歓迎してくれる人はかつて一人もいなかった。この青年は、あるいは…。
「うん、ホントにひどい…多分今、君みたいな人と、話したかったんだ」
青年の言うひどい話とはどういう意味なのか、抜け殻にはわかなかった。ただ、抜け殻の眼差しを受け止める優しい声は、今にも崩れてしまいそうな脆さだった。
「もし、なんだけど…よかったら、なんだけど」
「独り言、言っていかない?」
「独り言?」
「うん、独り言。君の声は、俺に届くかもしれない。俺の声は、君に届くかもしれない」
青年に提案された“独り言”。その意味はわからなくても、どうしようもない惨めなこの感情の吐き出す先を、この青年は用意しようとしてくれている。その意図は伝わってきた。
あなたのほうが、壊れそうなのに。
「だから、何ていうかな…自分と、お互いを助けるつもりで、さ…」

互いの内を吐き出していくなかで二人は友となり、青年は抜け殻に名前を与えた。"燎星心羽"ーーそれが彼女に与えられた名前だった。心羽は友という絆をくれた青年に、自身が身につけていたブレスレットを渡した。友自らが名を与えた“燎星心羽”という存在を、その記憶に刻みたかったから。

ポイント
・このとき、心羽は青年(当時高校二年)の顔も名前も知らない。
・二人の出会いは一夜限りのことで、心羽は翌朝に朝憬市を立ち去っている。
・青年の心の苦しみを理解できるほど心羽の感受性は成熟しておらず、この日のことに後ろめたさや罪悪感はない。
・この出会いを通じて心羽の心境が変化する。青年のような優しい心を他者に向けられる、『優しいことができる人』になりたいと憧れるようになる。
・青年は心羽の事実上の名付け親でもある。本当の親ではないとはいえ、その存在は心羽の親探しの旅に一応の決着をつけてくれた。
 
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目次:賜主から健人へ 
 リュミエに勝りこそした賜主(=仮名ネーゲル)もまた、不死よりも大きな傷を負った。故にこの時、星創は賜主の生命をある地球人に転生させた。先の青年、花森健人こそ賜主の転生体。彼はあくまで普通の人間、或いはそれ以下の無為、無力、苦痛を今一度味わうこととなる。またエクリプスらは主が消えて種としての統制が利かなくなった状態で、その中核派は十数年の間彼を探し、また待ち続けていた。
事態が急転したのは物語冒頭。大学二年となった花森健人は、塞がらぬ虚無感と諦観に、遂に自死を図ろうとしていた。だがその強い絶望を近くで感じた影魔が健人を襲った瞬間、心羽からのブレスレットを呼び水に、混ざり合った星創の力が目覚める。以降は健人の周りにエクリプスや影魔が立て続けに現れることになる。

このエクリプスや影魔出現の背景として、健人の力の発現に状況を理解したエクリプスらが、箱舟などの圧倒的な戦力を以て政府に花森健人の情報と朝憬市への入植を要求。政府はこれを呑んでしまう。
彼らが朝憬市にのみ現れる理由は、賜主を連れ戻すための花森健人の拉致。だが健人はもちろん賜主もこれに何故か応じない。(心羽との出会いの影響である)
 故に花森健人や彼に関わった人に刺客を向け、連れ戻しに失敗しても刺客を供物とすることで賜主の復活を促し、自身らの下に主が戻ることをエクリプスは目論んでいる。
 一方で賜主復活はエクリプスにとって最優先事項であるが、他の土地やその住民を巻き込むような大事にしては、政府関係者が花森健人をどうするか分からない。故にエクリプスは食料としての朝憬市住民と花森健人以外に手を出さず、政府関係者もこの2つへの不干渉と箝口令を敷いている。こうした密約が政府とエクリプスとで交わされ、均衡状態にあるのが、作中序盤の朝憬市の状況。

賜主は基本的に健人の中で息を潜めて休眠しており、かつ古巣に戻る気は現在ない。あくまで健人は普通の人間として存在している。そのため健人は不死ではなく、また健人が死ねば賜主も目覚めることはない。故に刺客は健人を決して殺めることなきよう、基本少人数で襲い来る。一方でブレスレット=心羽より与えられた星創の力の打破を目指してもいる。
 またエクリプスらが大規模な勢力を有しながら、朝憬市に少数のみ配置されているのは、大勢では現地での食料問題——絶望の調達のために朝憬市住民を襲撃して大被害を与えてしまうことが予見された。若しくは他の土地の者にまで被害が出るようなことになれば、上記の密約と均衡が崩れるため、そして主の統制を失い無軌道となった分離エクリプス派閥がいることもあり、基本的に他のエクリプスの軍勢は作中序盤は別行動している。

これは心羽がその絆を以て健人を守り、健人が心羽との友愛に足掻くことで、業苦にあった魂(賜主)と、失われた希望(リュミエ)を救う物語である——。