0 禁忌の魔法 1.星渡りの旅人 みんなに公開
目次1-1.1-2.1-3.1-4.1-5.1-6.1-7.1-8.1-9.1-10.1-11.1-12.
1-1.
ルクスカーデン王国の第一王女リュミエは、量子望遠鏡の置かれたベランダで星空を観察しながら、父親のエドウィン王と雑談に興じていた。リュミエ王女はエドウィン王から、夜空に浮かぶ星たちのひとつひとつにそれぞれの世界があること、その中で瞬きの間に生まれては死んでを繰り返す弱く儚い小さな輝きのことを“人”と呼ぶこと、そしてリュミエ自身もまた、その輝きのなかのひとつであることを聞く。
1-2.
王城の一室にて。エドウィン王、グレイス王妃、リュミエ王女、ジェイムス王子の四人家族で食事を囲みながら雑談を交わし、団欒とした時間が流れる。リュミエ王女は望遠鏡で見た星たちに家族で行ってみたいと提案する。しかし、エドウィン王曰くルクスカーデンから他の星へ行くことは時間や次元をも掻き乱す禁忌の行為であるらしく、提案は却下される。
1-3.
それ以降、リュミエ王女は資料室に入り浸るようになる。あの星たちが別の次元にあることは知っていたが、なぜ次元を超えた旅行は禁忌なのか、そもそも時間や次元を掻き乱すとはどういうことなのか、その仕組みや理論を徹底的に調べあげた。
この宇宙はどうやら“因果”と呼ばれる物理法則に支配されており、その宇宙と因果関係のないもの(=ルクスカーデンからの来訪者)が介入するとその世界の不変だった因果律が変わり、世界ごと消滅する未来へ向かってしまうこともあるらしい。そして、この理論は推測などではなく、はるか昔、とある魔術師が次元旅行をした結果、本当に消滅してしまった世界があるという事実に基づいている。禁忌とされているのもこのため。
しかし、いくら過去に実例があると言えどあくまで可能性があるというだけの話。リュミエ王女はそれだけで禁忌とされるのには納得がいかなかった。
そこでリュミエ王女は、なるべく“因果”に介入せず、世界を消滅させない旅行の仕方を研究し、導き出した。
まず、旅行先である星はルクスカーデンとは異なる次元にあり本当の肉体で行くことは因果に大きく介入してしまうため、その次元用に調整済みの投影された身体に魂を転移する形をとる(服装や荷物も同じように投影で持ち込む)。この方法では肉体をルクスカーデンに置いていくため、旅先にいる間はルクスカーデン内での時間は進まず、旅行から帰ってくる時刻は出発した時刻の直後になる。そもそも行先も自由に選ぶわけではなく、ルクスカーデンの次元座標から一定の範囲内、因果への影響が少なくすむ場所のみである。さらに、魂が傷つかない限り旅先での怪我や病気は帰ってきたら治っており、この方法では旅先でのお土産を持ち帰ることもできない。そして、旅先では目立った行動をしないこと。特に人前での魔法の行使は因果を大きく変えてしまう可能性が高いため厳禁。
これらのことを把握し、因果の流れに細心の注意を払ってリュミエ王女は禁じられた次元旅行に臨む。そこまでする理由は、単に幼さ故の知的好奇心だった。
1-4.
初の旅行先は地球という星の朝憬市という街。リュミエ王女は次元跳躍による酔いで早速体調を崩し、初日は宿屋で時間を潰す。(旅程に関しては未定。)数日ほど滞在して帰還。
1-5.
数ヶ月後。次元旅行にハマったリュミエ王女は家族に内緒で何度も旅に出るようになった。旅先での経験から魔法に頼らないサバイバル術や、現地の人とのコミュニケーションスキルなど多くの技術を得る。旅行中はルクスカーデンの時間は止まっているため、ルクスカーデンで数ヶ月経つ間にリュミエ王女は数年分の時間と経験を詰め込んだ。さらに旅先で様々な人と出会い、たくさんの友達を作り、幾多の世界に知り合いを増やしていった。
1-6.
リュミエ王女の存在は「星渡りの旅人」として様々な土地で噂となって言い伝えられ、その噂はエクリプスの耳にも届くようになる。
エクリプスはリュミエ王女の「星渡り」の能力を求め、言い伝えの残る土地に姿を現して調査するようになる。
やがて、リュミエ王女が再訪した際にエクリプスと邂逅することになる。噂の旅人とリュミエ王女が同一人物だと判断したエクリプスは手始めにリュミエ王女が現地で作った友達を攫い、リュミエ王女を誘き出したところを囲いこんで捕獲する作戦をとる。リュミエ王女はこの罠にかかる。魔法でエクリプスを押しのけて友達を救出し、両者ともに無傷で脱出する。
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ルクスカーデンに戻ってきたリュミエ王女は、あまりに衝撃的な出来事にショックを受け夜も眠れずにいた。逃げ切る直前にエクリプスが言い放った、「お前が逃げるなら次の標的はもう考えてある」という言葉が頭から離れない。自分のせいで大切な友達が危険な目に遭うかもしれない、その恐怖がリュミエ王女の心を追い詰めていた。ひとりで思い詰めている様子を見かねたエドウィン王は、事情には触れないながらも優しく諭す。
1-8.
翌朝。エドウィン王からの諭しで今できることをやろうと決心したリュミエ王女は、再び友達の所へ次元跳躍する。
1-9.
リュミエ王女は変わり果てた現地の光景に驚愕する。街全体がエクリプスの支配下におかれ、奴隷のように生気を失って働く人々の姿。家屋のほとんどが廃墟と化し、そこらじゅうを影魔が徘徊している。リュミエを目撃するなり捕まえようとしてくる影魔を対処しながら、まずは現地人に話を聞いて友達の居場所を探ろうとする。それにより、ルクスカーデンで一晩過ごした間にこちら側では半年もの歳月が過ぎていたことが判明する。
この半年の間に、エクリプスはリュミエ王女が再び現れた時確実に仕留められるよう街全体を乗っ取り、大規模な包囲網を作り上げてリュミエ王女の出現を心待ちにしていた。
一方で、半年前にエクリプスを押しのけ救出された体験を元に友達が「星渡りの旅人は強い、エクリプスなんかに負けない」という噂を流したため現地の人々もリュミエ王女の出現が現状の打破に繋がると信じて再訪を心待ちにしていた。
現地人の話によると、星渡りの旅人が現れたら友達はエクリプスが捕虜にしていると伝えろという指示が出ているらしく、リュミエ王女は友達を救うべくエクリプスを探す。
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リュミエ王女と遭遇したエクリプスは出会い頭に「攻撃してきたら捕虜を殺す、大人しくついて来たら会わせてやる」と脅しをかけ、リュミエ王女を容易く連行する。
とある廃墟に連れ込まれたリュミエ王女は、そこで遺体となった友達と再会する。しかも遺体はまだ温かく、死んでから数分しか経ってないことが想像される。全身に切傷と打撲があり、エクリプスから星渡りの旅人の居場所を聞き出すため半年に渡って拷問されていたことが告げられる。曰く、“さっきまで生きていたが、もう用が無くなったので殺した”。
1-11.
リュミエ王女は騙され、裏切られた悲しみに襲われ、自分のせいで友達を死なせてしまった罪悪感と喪失感で、周りが見えなくなるほどの深い絶望に落ちる。
“私のせいで殺されたんだ”
“あの子はずっと信じて待ってたのに、救えなかった”
“私が仲良くしなかったら、こんな風にはならなかった”
“旅なんかするから”
“友達なんか作るから”
“誰とも関わらないまま、禁忌を破らず独りでいれば誰も不幸にならずに済んだのに”
1-12.
エクリプスは悲しみに暮れて戦意を喪失したリュミエ王女を拘束し、様々な実験を行ってデータを収集、「星渡り」の能力がエクリプスには到底真似できない超技術であることを結論付けると、リュミエ王女を殺害。
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