No.3 2/3 version 43
No.3 2/2
何も出てきませんように…出てきたらどうなってしまうのか
剣人が精密検査を受けたのは、その二日後のことだった。その結果が出るのは一週間後であると、退院前の診察時に、担当医の生島から伝えられた。40代を過ぎた落ち着きを持った様子と、真面目な印象を与える出で立ちの彼に対し、「…先生、実は…」と剣人はその思いを切り出した。落ち着け…努めてでも落ち着いて話すんだ…
「その精密検査の結果を伺う場面なんですが、その場には家族と一緒に伺う感じでしょうか?」
「ええ、こちらとしてはそのつもりで今のところいますが」
生島はその彫りの深い顔を少しこちらへ傾ける。意識をこちらの質問へと向け、その意図を考えているように剣人には見えた。剣人は少しだけ息を吸って、言った。
「…無理を言うかも知れませんが、検査結果は僕一人で伺うことは可能ですか?」
「……ふむ」
神妙さが顔に出てしまっているのが自分でも判るが、それは構わない。自分はそういうところがあるし、そうしてでも伝えておかねば、難儀するのは自分たち家族だ。
「…何か、事情があるのですか?経過に関わることで」
測りかねる意図に対する怪訝さから、生島が少し眉根を寄せる。しかしその態度は毅然としていた。もう、あの事を出すしかない…「直接ではありませんが…」そう切り出した剣人もまた真剣な表情で話す。
「…僕は以前、精神科に入院していました」
「……」
生島は毅然した表情のまま、しかしその話を止めることはなかった。優しい人だ。ふとそんなことを感じつつも口を動かす自分がいた。
「……その際に、父と母には限りなく面倒をかけました。流石にこれ以上悪い報せは、父と母には聞かせられない」
全てを明かすわけにもいかないが、その言葉に偽りはない。その思いだけは持って、剣人は生島の目を見つめた。
「…診察している限りでは、快方に向かっています。精密検査は状況として必要だと私も考えましたが、そこまで思うのは何故です?」
思いは解るが、事実や行動としてどうしてその質問をしたり、そこまで思い詰めているのか…状況から見て違和感がある。生島の見つめ返す目と質問は、そう言っていた。
「僕の持つ病気からか、慢性的に不安でして…目の前で家族が辛くなったら、それこそ…僕は怖い」
「…花森さん」
「恐らくは僕が病的にそう思っているだけですし、もちろん検査結果が良かったら、家族と伺います」
「…しかし、事が事だ…花森さん。貴方だけの身体や人生じゃない」
「…だからこそ、お願いしています。それに僕の人生ではあります」
「……ifの話をしても仕方ありません…しかし、思いは受け止めましょう。最初に知る権利と必要があるのは、本来は花森さんですから」
何も出てきませんように…出てきたらどうなってしまうのか
剣人が精密検査を受けたのは、その二日後のことだった。その結果が出るのは一週間後であると、退院前の診察時に、担当医の生島から伝えられた。40代を過ぎた落ち着きを持った様子と、真面目な印象を与える出で立ちの彼に対し、「…先生、実は…」と剣人はその思いを切り出した。落ち着け…努めてでも落ち着いて話すんだ…
「その精密検査の結果を伺う場面なんですが、その場には家族と一緒に伺う感じでしょうか?」
「ええ、こちらとしてはそのつもりで今のところいますが」
生島はその彫りの深い顔を少しこちらへ傾ける。意識をこちらの質問へと向け、その意図を考えているように剣人には見えた。剣人は少しだけ息を吸って、言った。
「…無理を言うかも知れませんが、検査結果は僕一人で伺うことは可能ですか?」
「……ふむ」
神妙さが顔に出てしまっているのが自分でも判るが、それは構わない。自分はそういうところがあるし、そうしてでも伝えておかねば、難儀するのは自分たち家族だ。
「…何か、事情があるのですか?経過に関わることで」
測りかねる意図に対する怪訝さから、生島が少し眉根を寄せる。しかしその態度は毅然としていた。もう、あの事を出すしかない…「直接ではありませんが…」そう切り出した剣人もまた真剣な表情で話す。
「…僕は以前、精神科に入院していました」
「……」
生島は毅然した表情のまま、しかしその話を止めることはなかった。優しい人だ。ふとそんなことを感じつつも口を動かす自分がいた。
「……その際に、父と母には限りなく面倒をかけました。流石にこれ以上悪い報せは、父と母には聞かせられない」
全てを明かすわけにもいかないが、その言葉に偽りはない。その思いだけは持って、剣人は生島の目を見つめた。
「…診察している限りでは、快方に向かっています。精密検査は状況として必要だと私も考えましたが、そこまで思うのは何故です?」
思いは解るが、事実や行動としてどうしてその質問をしたり、そこまで思い詰めているのか…状況から見て違和感がある。生島の見つめ返す目と質問は、そう言っていた。
「僕の持つ病気からか、慢性的に不安でして…目の前で家族が辛くなったら、それこそ…僕は怖い」
「…花森さん」
「恐らくは僕が病的にそう思っているだけですし、もちろん検査結果が良かったら、家族と伺います」
「…しかし、事が事だ…花森さん。貴方だけの身体や人生じゃない」
「…だからこそ、お願いしています。それに僕の人生ではあります」
「……ifの話をしても仕方ありません…しかし、思いは受け止めましょう。最初に知る権利と必要があるのは、本来は花森さんですから」