霹天の弓 ー1章ー【第3話】Ver.2.1.3 version 8
霹天の弓 ー1章ー【第3話】Ver.2.0.1
まるでおとぎ話みたいな、ふしぎな夢だったなぁ…———
まるでおとぎ話みたいな、不思議な夢だったなぁ…———
日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ今だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ未だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
「あ、そうだ…約束」
そのことを思い出すと、微睡みに在った意識が更に覚醒に向かい、心羽の目が開く。だが、それこそあの出来事は夢だったのではないか…そんな思いに、ふと右手が胸に向かう。そこには、確かに何か硬い感触があった。それを布団から取り出すとともに、身を起こし、その目で確認する。あのペンダントだ…あの夢は、夢では終わらず、今日も確かに続いてる…!心羽は胸が熱くなるような、高揚した思いに包まれ、跳ね出したいような衝動のまま、自室を飛び出した。
「おはよう!」
「おはよう、昨日はゆっくり休めた?」
母の詩乃と挨拶を交わしながら、心羽はリビングに躍り出る。
「うん!」
珍しく張りきった娘の様子に、詩乃は若干驚きながら、少し先に食べていた朝食を片付け始める。心羽の席に並べられた本日の朝食は、ベーコンエッグとレタス、そして心羽に合わせた量のライス。
珍しく張りきった娘の様子に、詩乃は若干驚きながら、少し先に食べていた朝食を片付け始める。心羽の席に並べられた本日の朝食は、ベーコンエッグとレタス、そして小食の心羽に合わせた量のトースト。
「…ずいぶん元気ね」
そんなテンションが高い今朝の心羽に、詩乃が最初に抱いた印象はこれだった。昨日が昨日だったから心配したけれど、一晩にしてこの変容はどうしたの?詩乃はそれを聞こうか躊躇いながら、昨晩の心羽の様子を想起する。
昨日の夜のことである。影魔という名の異形の存在と、カルナという名の未知の力に出会った心羽は、流石にその事象に完全には順応しきれない疲労感を抱えて、ルクスカーデン13番街の住宅街に位置する自宅に帰った。《母の詩乃の下には番街での影魔襲来の報せが入っていたのだろう、》愛娘のその様子を見るや否や「心羽、大丈夫?何かあったの?」と問うも、彼女は咄嗟に「大丈夫だよ」と気丈に振る舞って返す。
《「三番街で事件があったんでしょ?あなたに何かあったらって、流石に心配だった」》
詩乃の口から出てきたのは、娘の身を案じる母の言葉だったが、心羽は自分に起こった出来事を、自分でも不思議に思いながらも伏せた。
「ありがと、お母さん。アレグロで練習しすぎて疲れちゃった」
なるべく悟らせないように、母の視線を受け止め、それを逸らさず話す。心配をかけておいて心苦しかったけれど…そのために、皆のためにできるかもしれないことを止められたくない。そして母が用意してくれていた夕食に目を移し、心羽は続ける。
「ごめんね、お母さん…疲れて眠いから、今日は夕食いいや」
その雰囲気を全く悟らせないことは、まだ年端もいかない心羽には難しいことだった。けれど詩乃は、そんな娘の様子から何か理由があることを理解しつつ、娘の思いと主体を重んじて、様子をみることを判断する。
「うん、わかった。ゆっくり休んでね…おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そんな母に、少し安堵した様子で返事をして、心羽は二階の自分の部屋に上がったのだった。
その夜、影魔という名の異形の存在と、カルナという名の未知の力に出会った心羽は、流石にその事象に完全には順応しきれない疲労感を抱えて、ルクスカーデン十三番街の住宅街に位置する自宅に帰った。そんな心羽が玄関の木戸を開け、間延びした「ただいま~」の声と共にリビングに入ると、ちょうど夕食を作り終えた詩乃が、同じく間延びした返事をする。
「ああおかえり~、随分遅かったね、練習大変だった?」
「うん…団長が凄く気合入ってて、はるちゃんも私も疲れちゃって」
咄嗟に出たのは、そんな言葉だった。なぜだろう…自分でもよくわからない。ただ、大切な人に本当のことを…自分の一大事を言わないのは、流石に気が引ける。なのに、なんであのことを母とは共有しようと思えないのか…心羽は自分の行動が疑問だった。
「…心羽?」
上の空の心羽の様子を、詩乃は目を細めて凝視する。神妙な娘の顔をそのまま覗き込んでいると、その様を察知した心羽と接近した目と目が合う。
「あ~…お母さん…近い」
「…そう?」
距離を離して詩乃が微笑む。なんだよもう、人がシリアスに考えてるのに。心羽は茶目っ気を演出して悦に入った様子の母を、むすっとした表情と半眼で睨んで少し距離を取る。途端に顔をわざとらしく手で覆い、作った涙声で詩乃から抗議の一言が入った。
「お父さん、心羽がグレた~」
まるでおとぎ話みたいな、不思議な夢だったなぁ…———
日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ未だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
「あ、そうだ…約束」
そのことを思い出すと、微睡みに在った意識が更に覚醒に向かい、心羽の目が開く。だが、それこそあの出来事は夢だったのではないか…そんな思いに、ふと右手が胸に向かう。そこには、確かに何か硬い感触があった。それを布団から取り出すとともに、身を起こし、その目で確認する。あのペンダントだ…あの夢は、夢では終わらず、今日も確かに続いてる…!心羽は胸が熱くなるような、高揚した思いに包まれ、跳ね出したいような衝動のまま、自室を飛び出した。
「おはよう!」
「おはよう、昨日はゆっくり休めた?」
母の詩乃と挨拶を交わしながら、心羽はリビングに躍り出る。
「うん!」
珍しく張りきった娘の様子に、詩乃は若干驚きながら、少し先に食べていた朝食を片付け始める。心羽の席に並べられた本日の朝食は、ベーコンエッグとレタス、そして小食の心羽に合わせた量のトースト。
「…ずいぶん元気ね」
そんなテンションが高い今朝の心羽に、詩乃が最初に抱いた印象はこれだった。昨日が昨日だったから心配したけれど、一晩にしてこの変容はどうしたの?詩乃はそれを聞こうか躊躇いながら、昨晩の心羽の様子を想起する。
その夜、影魔という名の異形の存在と、カルナという名の未知の力に出会った心羽は、流石にその事象に完全には順応しきれない疲労感を抱えて、ルクスカーデン十三番街の住宅街に位置する自宅に帰った。そんな心羽が玄関の木戸を開け、間延びした「ただいま~」の声と共にリビングに入ると、ちょうど夕食を作り終えた詩乃が、同じく間延びした返事をする。
「ああおかえり~、随分遅かったね、練習大変だった?」
「うん…団長が凄く気合入ってて、はるちゃんも私も疲れちゃって」
咄嗟に出たのは、そんな言葉だった。なぜだろう…自分でもよくわからない。ただ、大切な人に本当のことを…自分の一大事を言わないのは、流石に気が引ける。なのに、なんであのことを母とは共有しようと思えないのか…心羽は自分の行動が疑問だった。
「…心羽?」
上の空の心羽の様子を、詩乃は目を細めて凝視する。神妙な娘の顔をそのまま覗き込んでいると、その様を察知した心羽と接近した目と目が合う。
「あ~…お母さん…近い」
「…そう?」
距離を離して詩乃が微笑む。なんだよもう、人がシリアスに考えてるのに。心羽は茶目っ気を演出して悦に入った様子の母を、むすっとした表情と半眼で睨んで少し距離を取る。途端に顔をわざとらしく手で覆い、作った涙声で詩乃から抗議の一言が入った。
「お父さん、心羽がグレた~」