霹天の弓 ー1章ー【第3話】Ver.2.1.3 version 5
霹天の弓 ー1章ー【第3話】Ver2.0
まるでおとぎ話みたいな、不思議な夢だったなぁ…———
翌朝のことである。日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ今だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ今だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
「あ、そうだ…約束」
そのことを思い出すと、微睡みに在った意識が更に覚醒に向かい、心羽の目が開く。だが、それこそあの出来事は夢だったのではないか…そんな思いに、ふと右手が胸に向かう。そこには、確かに何か硬い感触があった。それを布団から取り出すとともに、身を起こし、その目で確認する。あのペンダントだ…あの夢は、夢では終わらず、今日も確かに続いてる…!心羽は胸が熱くなるような、高揚した思いに包まれ、跳ね出したいような衝動のまま、自室を飛び出した。
「おはよう!」
「おはよう、昨日はゆっくり休めた?」
母の詩乃と挨拶を交わしながら、心羽はリビングに躍り出る。
「うん!」
珍しく張りきった娘の様子に、詩乃は若干驚きながら、少し先に食べていた朝食を片付け始める。心羽の席に並べられた本日の朝食は、ぺーこんエッグとレタス、そして小食の心羽に合わせた量のライス。
「…ずいぶん元気ね」
そんなテンションが高い今朝の心羽に、詩乃が最初に抱いた印象はこれだった。昨日が昨日だったから心配したけれど、一晩にしてこの変容はどうしたの?詩乃はそれを聞こうか躊躇いながら、昨晩の心羽の様子を想起する。
昨日の夜のことである。影魔という名の異形の存在と、カルナという名の未知の力に出会った心羽は、流石にその事象に完全には順応しきれない疲労感を抱えて、ルクスカーデンに番街の住宅街に位置する自宅に帰った。母の詩乃の下には三番街での影魔襲来の報せが入っていたのだろう、愛娘のその様子を見るや否や「心羽、大丈夫?何かあったの?」と問うも、彼女は咄嗟に「大丈夫だよ」と気丈に振る舞って返す。
「三番街で事件があったんでしょ?あなたに何かあったらって、流石に心配だった」
詩乃の口から出てきたのは、娘の身を案じる母の言葉だったが、心羽は自分に起こった出来事を、自分でも不思議に思いながらも伏せた。
「ありがと、お母さん。でも何もなかったよ、疲れてるのもアレグロで猛練習したからだし」
なるべく悟らせないように、母の視線を受け止め、それを逸らさず話す。心配をかけておいて心苦しかったけれど…そのために、皆のためにできるかもしれないことを止められたくない。そして母が用意してくれていた夕食に目を移し、心羽は続ける。
「ごめんね、お母さん…疲れて眠いから、今日は夕食いいや」
その雰囲気を全く悟らせないことは、まだ年端もいかない心羽には難しいことだった。けれど詩乃は、そんな娘の様子から何か理由があることを理解しつつ、娘の思いと主体を重んじて、様子をみることを判断する。
「うん、わかった。ゆっくり休んでね…おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そんな母に、少し安堵した様子で返事をして、心羽は二階の自分の部屋に上がったのだった。
まるでおとぎ話みたいな、不思議な夢だったなぁ…———
日が昇ってしばらくして、人々が活動を始める時間。それを示す時計塔の「二の鐘」の音が、まだ少し冷たい朝の空気を震わせて、心羽の部屋に届く。それが朝焼けの日差しと相俟って、心羽の五体を覚まさせる。とはいえ今だ少し微睡む意識の中、心羽はそのぼんやりとした頭で、昨日の出来事を想起する。すごく怖い思いをしたけど、その中でも頑張れたことがあった…あれは…そう、守れた記憶。そして…
「あ、そうだ…約束」
そのことを思い出すと、微睡みに在った意識が更に覚醒に向かい、心羽の目が開く。だが、それこそあの出来事は夢だったのではないか…そんな思いに、ふと右手が胸に向かう。そこには、確かに何か硬い感触があった。それを布団から取り出すとともに、身を起こし、その目で確認する。あのペンダントだ…あの夢は、夢では終わらず、今日も確かに続いてる…!心羽は胸が熱くなるような、高揚した思いに包まれ、跳ね出したいような衝動のまま、自室を飛び出した。
「おはよう!」
「おはよう、昨日はゆっくり休めた?」
母の詩乃と挨拶を交わしながら、心羽はリビングに躍り出る。
「うん!」
珍しく張りきった娘の様子に、詩乃は若干驚きながら、少し先に食べていた朝食を片付け始める。心羽の席に並べられた本日の朝食は、ぺーこんエッグとレタス、そして小食の心羽に合わせた量のライス。
「…ずいぶん元気ね」
そんなテンションが高い今朝の心羽に、詩乃が最初に抱いた印象はこれだった。昨日が昨日だったから心配したけれど、一晩にしてこの変容はどうしたの?詩乃はそれを聞こうか躊躇いながら、昨晩の心羽の様子を想起する。
昨日の夜のことである。影魔という名の異形の存在と、カルナという名の未知の力に出会った心羽は、流石にその事象に完全には順応しきれない疲労感を抱えて、ルクスカーデンに番街の住宅街に位置する自宅に帰った。母の詩乃の下には三番街での影魔襲来の報せが入っていたのだろう、愛娘のその様子を見るや否や「心羽、大丈夫?何かあったの?」と問うも、彼女は咄嗟に「大丈夫だよ」と気丈に振る舞って返す。
「三番街で事件があったんでしょ?あなたに何かあったらって、流石に心配だった」
詩乃の口から出てきたのは、娘の身を案じる母の言葉だったが、心羽は自分に起こった出来事を、自分でも不思議に思いながらも伏せた。
「ありがと、お母さん。でも何もなかったよ、疲れてるのもアレグロで猛練習したからだし」
なるべく悟らせないように、母の視線を受け止め、それを逸らさず話す。心配をかけておいて心苦しかったけれど…そのために、皆のためにできるかもしれないことを止められたくない。そして母が用意してくれていた夕食に目を移し、心羽は続ける。
「ごめんね、お母さん…疲れて眠いから、今日は夕食いいや」
その雰囲気を全く悟らせないことは、まだ年端もいかない心羽には難しいことだった。けれど詩乃は、そんな娘の様子から何か理由があることを理解しつつ、娘の思いと主体を重んじて、様子をみることを判断する。
「うん、わかった。ゆっくり休んでね…おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そんな母に、少し安堵した様子で返事をして、心羽は二階の自分の部屋に上がったのだった。